冒頭・戦闘描写三種類の解説①

 はい、どこまでも使い倒すよ~、ハイロック氏のラノベチック描写からどうぞ。


<引用>

 勇者の振り下ろした剣は、まっすぐ、ゴブリンの頭上に向かっていったが、そこにはすでに目的の姿はなく、剣はただ空を切ることとなった。全く手ごたえのない虚空を切ってしまったせいで、勇者の体はそのまま前のめりに倒れ、体勢を崩してしまう。

 その無防備なスキをゴブリンが見逃すはずもなく、まっすぐ勇者の背中に向けてそのたっぷりと質量のある戦斧に全体重をかけながら振り落とそうとするも、間一髪ゴブリンの顔面を、仲間の魔法使いによる灼熱の閃光が襲った。

 勇者は態勢を立て直すと、魔法使いの火炎に苦しむゴブリンの胴体を、彼の剛腕から繰り出される最速の斬撃で一断ちにしたのだった!


<解説>

 この文章では、後回しにされた情報ポイントとして「勇者ってダレ?」「魔法使いってダレ?」「仲間って?」「魔法???」「何でゴブリンと闘ってんの?」という辺りがまるまる無視で語られます。

 しかし、行数にしてたかだか9行ですんで、これで嫌気が刺す読者はまぁ居ないでしょう。ここが氏の上手なトコです。違和感が出る前にサクサクと畳み掛けるような口調で、有無を言わさずに戦闘を打ち切ってるんです。


 後は、読者が抱え込んだ数々の疑問符を一つひとつ解きほぐしていくだけ。私が書いた魔改造②の前段部分の描写がこれに当たってます。なので、その後に氏の描写をくっ付けても違和感がほとんどなかったんです。勇者や魔法使いの情報はなくても、状況説明はしてましたんで。なんとなく推測が付く程度には情報を付けたし、前提でそれまでに人物やクエストに至る経緯のシーンは出たものとして、つまり、冒頭ではないという設定で書いたものでした。


 しかし、このハイロック氏の描写だけを取れば、実はコレ、このまま冒頭に置いても問題ない描写だったりします。

 私はこれの前に状況説明の為の描写をくっ付けましたが、状況説明は別にこの戦闘の後でやっても構わないわけです。そして、読者の興味を引く方法としてなら、いきなり戦闘描写が始まって「なに?なに?」となった方がいい。


 描写が難しいのは、実はパーツ一つひとつではなくて、パーツとパーツを繋ぐ間合いの時間の書き方にあるのです。

 戦闘イベントの後、仲間との会話イベントが入るとしましょうよ、その会話に繋ぐまでの描写、ここが出来るか出来ないかが問題なんです。ジョイントの部分ですね、私が書いた部分です、あの前にも何かのイベントがあり、そのジョイントの描写の後に、私が書いた戦闘前の描写が来て、その後にハイロック氏の戦闘描写と繋がってるんです。


 引用の戦闘描写には、「ゴブリンを倒した」しか入っていないので、その前後に数々の情報を提示するための描写を入れねばならないって事です。


 次は、戦闘描写の中に幾つかの情報を混ぜたものを。

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