タラタラ描写してはいけない理由③

 ハリウッド映画では、流行りの要素や観客の好みに合わせた展開、あるいはスポンサーの意向が反映されるように画面作りが成されます。政府のプロパガンダが露骨に入っていた時代もありました。

 ある時期は中東の「国」が敵によくあげられ、それが「テロリスト」に代わり、最近だと「北朝鮮」がチラホラ見られるようになりました。世相が反映されるわけで。


 では、この世相というのはどこの誰が映画や創作物に捻じ込んでくるのでしょう?


 実は、それは視聴者や読者自身だったりします。総意というヤツです。


 先ほど述べた、テンプレにおいてはテンプレでない展開は入れることが難しいという件も、これに関連しています。テンプレ作品というのは特にこの、読者の意向が強く反映されるジャンルなのです。読者との結びつきがダイレクトです。

 読者の意向にもピンキリありますんで、その中の中心ど真ん中、最多数の意向に合わせて書くということになるわけです。そうした平均値オブ平均値な求めに大筋は合意しつつ、ちょっとした差異としてオリジナルを入れ込んでいるわけです。

 そのオリジナル要素にしても、やはり読者の意向が汲まれ、差異といいつつ、あまりに奇抜ではいけないという非常に強い縛りがあるジャンルです。


 もうね、読者中心主義の小説ジャンルなのですよ。ですから、読者の立場に立てば、これほど心地いい小説はないでしょう、受け身で読む姿勢でも、押し付け感はほぼないという事になりますから。深く考えねばものすごく愉しいはずです。(実際にはとても深い部分で捩れているので、存在自体に矛盾を孕んでおります)


 片や、それ以外の普通の書き方ですと、どうしても押し付ける感覚は拭えません。そもそもで創作ってのが「ところで、これ、どう思う?」から出発している為に、意見の提示なわけですな。押し付け感があるのは仕方ない。

 こっちを好む読者は、作者の提示する意見を楽しみにしてるので、テンプレが鼻につくわけですわ、サービス精神の方が主体にしか思えないわけなので。本質的にはサービスなど求めちゃいないんです、こっちの読者は。意見を述べよ、気を遣わなくていいから、とまぁこういう事。


 てなわけで、普通のラノベや文学や文芸ってのは、まず作者の意向になります。異世界を舞台に書くにしても、読者が求めてるからの理由でなく、これを提示したいという作者の思惑が優先。読者が読みたそうなものという理由で書くなら素直にテンプレに行った方が合理的。中途半端なモノにしかならず誰も得しないからね。


 んで、文学の条件付けには「時代を反映している」が入っています。これは文芸にも、テンプレでないラノベにも自然に入ってくる要素のはずです。荒唐無稽な話とか、君と僕で完結したセカイ系でもなければ、その時代の、時代たる特色はどうしても映りこんでいくんですけどね、これが重要なんすね。


 後の時代の人が読んだときに、その物語が書かれた時代背景が読み取れる、そういう要素を含むことが、優れている作品の条件の一つなわけです。


 金田一耕介のシリーズが名作なのは、その当時で初となるトリックを駆使しているのもさる事ながら、当時の時代が如実に描き出され、その時代であるからこその事件という背景があるから、なんですわ。いつでも通じる事件じゃないんですね。

 現代に持ってきて再現されてしまうようなものでない、だから時代性なのです。


 逆を、普遍性っていいます。


 タラタラ描写すると、どうしてもこの2つ、時代性か普遍性かを意識して書かねばならなくなるんですな。意識してますか?


 小説の文章は、表面的にはその文字列の示すままの意味が伝わるかどうかで書かれますが、その裏側では色んな計算が働いて語句の選択が成されています。

 時代性だとか普遍性だとか、一文の与える効果だとか、キャッチーさだとか。あれこれを計算して書くので、その項目が多くなるほど作者は疲れるし、一文を書くに時間が掛かるわけです。頭の回転にもよりますが。プロで月間生産してるよーな作家さんはそうと考えるとほんとバケモンですな。(笑

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