4 檻の中
4-1 襲撃
己に突き刺さった矢を呆然と見る。ひやりと冷たく震えた手で胸元の手記を確認する。
(よかった、手記に血はついてない。)
安心したのもつかの間、矢を纏う愛馬が急に暴れ、地面に放り投げ出される瞬間を、敵が捉える。こめかみの奥が鈍く痛み、矢が見事に的中した。矢が胸に刺さった瞬間、
「うっ・・・」
一声悲鳴が上がる。しかし、“痛みとは何なのか”感覚が麻痺していた。無理やり口を開け深呼吸をし、息を整える。手記に血がつかないよう、震えたままの手で服から取り出し、しっかり握りしめる。
(逃げ切れるか?)
背中がひんやりしたかと思いきや、今度は生温かい。自分の血が地面に刻みつけるように滲みを広げる。自分一人と、敵が複数。愛馬はその姿を消し、もうすぐ敵が目の前まで追いつく。敵が最後の矢を放つまでの刹那、俺はとても長い刻を過ごした。
(もはや、ここまでか。)
仰向けになった俺の目に無数の橙色が映る。星ではないたくさんの光が、特に東の方角にたくさんいる。それは、祭りラストの風物詩である、天燈(ランタン)の光であった。それらはこちらの状況だなんて気にする様子もなく、悠々と空を漂い、いくつもの橙色が空から俺を見下ろしていた。
(あの時ケチらないでデザートも食べればよかった)
最後の後悔がまさかの今日の晩御飯のことで、なんだか緊張が解け、もう全身に力を入れることは叶わなかった。その上、胸の痛みが今になってやってきた。再び周りが活動を開始する。そして俺の目は、矢先が鈍色に光るのを逃さなかった。
(・・・死ぬのか。レグルスの元へ行くの、思ったより早かったなぁ。)
ルイスに助けられて、シンとレィに出会って、山の外の世界を知った。シンというやんちゃな親友ができた。首都でイルに習った細工師として工房で働きながら、他のたくさんの職人と切磋琢磨して技を磨いた。外にはさらに世界があり、異国情緒あふれたその街で、たくさんの国の物語を知った。短い間だったけど、神様のプレゼントだったのかもしれない。
(あっちで、レグルスにたくさんの話をしよう。さぞ驚くだろうなぁ。)
おのずと恐怖なんてものも存在せず、むしろ清々しいほどであった。
ーその少年は、最後まで手記を握りしめていた。
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