3 首都エレクタ
3 物語の始まり
故郷の山を降りた時には青々としていた木々は赤や黄色などに変わり始め、燦々と気だるい暑さは消え、心地の良い涼しさに変わっていた。
「ここが首都か・・・!」
身の割にはかなり大きいリュックをよいしょと持ち直し、晴れ渡った夜空のような碧い目をキラキラと輝かせ、幼い少年はこれが夢でないことを確認した。この石橋を渡り終えれば、ずっと目指してきた首都へ入る。
「いよいよだぞ・・・!トロ!」
共に旅をしてきたとろんとした目をした馬の相棒に声をかける。いつもはおっとりしている彼女も、少し緊張しているようだった。
この場所を目指し、彼と共に旅した日々を思い出す。まだ10にも満たないこの幼い少年にとっては経験したとこのない大冒険であった。彼は初夏に出発し、今はもうすでに秋になっていた。何度帰りたいと思ったことか。親のいない俺を拾い育ててくれ、相棒を貸してくれた族長の顔をふと思い出し、ここからはもう見えない故郷の山がある北の方角を振り返った。
(族長、ありがとう)
もう帰ることのない故郷を見つめ、皆のことを思い出しちょっぴり寂しくなるが、これまでの旅を思い出し、意を決し故郷の山に背を向けた。旅途中で初めてできた友を思い出す。
(シンは、元気にしているだろうか)
初めこそ色々あったが、あの悲しみを乗り越えることができたのは三人のおかげであった。シンとその護衛をしていたというレィと、初めこそ大嫌いだった師匠のルイスが目に浮かんだ。その旅で少年はこの国の様々なことを知った。しかし、わっと目の前に広がる活気にあふれた光景がすぐにかき消した。
–もう、振り返ることはない。
少年はもう一度大きくゆっくりと深呼吸をし、相棒の手綱を握りしめる。
「トロ、準備はいいかい?」
恐る恐る慎重に右足を上げ、地面のレンガと橋の境を確認して、ここが首都であると主張する、レンガ道に初めの一歩を踏みしめた。
少年のブーツのかかとと相棒の蹄がレンガに当たった瞬間、
–カツッ
硬くて高い音がレンガ通りに鳴り響く。その初めて響く楽しげな音に少年はわぁと驚いた。ルイスからもらったブーツを履くのは今日が初めてだった。土の地面とは違う、その初めての感触と音に幼い少年の胸は高鳴った。
–カツ、カツ、
一歩一歩踏みしめるたび、その音はレンガ通りに鳴り響き、少年はその不思議な音色に合わせ少しずつ、しかし着実に青々とした若葉が赤や黄色に染まり始めるようにカラフルにその音を奏で始めた。
好奇心だけが今の彼を支配していた。
–これまでの大冒険はまだ物語のスタートラインにも立っていなかったのだ。
幼い少年は相棒と共に、わざと大きく足音の音色を響かせながら、レンガ通りを歩き出した。これから始まる物語に期待を膨らませ夢中で飛び込むように。
その少年の様子を同じ場所にいた幾らかの人々が見ていた。人々は、幼い少年を急かすでも邪魔だと怒るでもなく、少年の奏でる音を静かに聞き、微笑ましく見守っていた。、好奇心いっぱいを全身から放っている幼い少年を、かつての若い頃の自分と重ね、彼のこれから始まる物語に心からの祝杯を送った。
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