2-4 月

 月明かりの元を飛ぶ鷲を頼りに、レィとその背に身を預けていたシンはなれない道無き道を、泥だらけになりながら進んでいた。どうしても今夜、ルイスと合流せねばならなかったため、レィは汚れることなど気にせず、ただ歩を進めていた。シンの意識が朦朧としていたからだ。


 これは今に始まったことではない。シンはいつも、新月と満月の夜必ず体に変化が起こり、今夜も何かしら起きると予測していた。そのため早くルイスと合流したかったが、日中の大雨のせいで足止めをくらい、こんなに遅くなってしまった。軍で鍛え上げられたその体は、小さい子供一人背負うのは何の苦でもなかったが、シンの体調が急変することを恐れて気持ちが焦って、冷静ではいられなかった。普段なら気がつく木の根に引っかかり、ぬかるんだ地面に盛大に転んでしまった。


 慌ててシンの無事を確認する。自分がクッションになったため、シンは無事であった。ほてったような顔をこちらに向け、わずかながらに口角を上げ、レィに無事を伝えた。前を向けば、炎がやんわりと見えた。その上で鷲が円を描くように飛んでいた。ルイスがそこにいると確信に変わった。


 すると、悲鳴のような甲高い声が響いた。何事かと思い、レィはシンが上に乗ってる転がった状態のままその方角を見た。ルイスのいる方角だった。シンを介抱しながら音を立てないように、物陰に隠れて近づいた。ルイスが、シンと同じ年頃の少年に突っ掛かれれていた。少年の収穫頃の麦畑のような金髪と、涙を宙に撒き散らす晴れ渡った夜空のような碧い瞳を見て、それはレグルスに交換条件として頼まれたシンと同い年の少年であるとすぐに悟った。


(そう、私はこの子を守るために、あの少年の唯一の家族を殺したのだ・・・。)


 思わず、シンの腕を力強く握ってしまった。シンが「うっ・・・」と眉間にしわを寄せ顔をしかめ、慌ててシンの腕を離せば、レィの手のあとがくっきりと残った。レィは、自分がしたことを改めて突きつけられて、胸が身が引き裂けそうなほど締め付けられた。

 シンを早くルイスに見せなければとわかっていながらも、少年が疲れて眠り、ルイスがこちらに来るまで、足が地面にへばりついたように動かすことができず、そこから動けなかった。レィはシンの意識がはっきりしたことき気がついていなかった。


 シンは、レィに腕を強く握られ、その痛みで朦朧とした意識がはっきりとした。レィの様子に全く気がつかず、そして、雷に打たれたような衝撃を受け、目をこれでもかというほど見開き泣き叫ぶ少年をくいいるように見ていた。

「狭間の・・・精霊ほし・・・」そう、自分と同じ星の力を持った少年を。


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