1-2 秋


 少年はイルに言われた通り、気がむくまま、感じたまま、竪琴を鳴らす。トロと夏の山を駆け抜け、爽やかな風を感じた時、雨でジメジメして外に出られなくてもやもやした時・・・・。


 少年は、その全ての心地を音に乗せる。目を閉じれば、その情景がまぶたの奥に鮮やかに浮かび上がる。

彼が竪琴を鳴らせば、精霊トトたちが集まりそこが実に心地の良い空気に変わることをトロは知っていた。トロは、少年と少年の竪琴の音が好きだ。


 少年の竪琴は実にまだ拙いが、その音につられて彼らは集まってくる。実に居心地の良い、その音を。


 ♪


 その時、木の葉が舞い、添えるような音が竪琴から鳴った。すると少年は、ぱぁぁとお日様が宿ったような実に嬉しそうな笑顔になった。





---カサカサと枯葉を踏む足音が聞こえる。イルだ。そして荷物を乗せたトナカイのトカがイルに引かれてやってきた。


「ヘキ、夜が明ける。そろそろ出立するぞ。冬が来る前に頭蓋骨の元へ帰るぞ。」

 男が竪琴に夢中になっている少年の肩に手を軽くおいた。そして少年は、再び違う夢から覚めたようにハッと体を反動させた。


「イル!聞いて!聞いて!」


 嬉しくてしょうがない少年はイルに聞いて欲しくてたまらなくて早口にこれでもか!というほど興奮していた。

 イルは微笑みながら少年の熱が冷めるまで待つと、トロにまたがり前にヘキを乗せヘキの両脇から腕を伸ばしてトロの手綱を握った。


「あの傾斜にはお前にはまだ危ないしなぁ。トロ、悪いが俺も乗せてもらうよ。トカは荷物があるからそのままついといで。」



 トロは、イルの進めという合図で走り出す。会いたくてしょうがない、主の頭蓋骨の元へ。彼はきっと今頃、イルとヘキに面白おかしい話を考えているにちがいない。二人と二頭が朝焼けの霧の中へ来て行った。



 もうすぐ、冬がやってくる。

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