2 謎の男

2-1 夢

(レグルス!レグルス!レグルス!!!!!)

 ヘキは恐ろしい夢を見た。途切れ途切れにいくつも、いくつも。赤く炎に包まれた森が、兵士の叫び声が耳にこびりついて離れない。

  轟々燃える炎、見渡す限りの赤、赤、赤・・・・!!!!

 業火が一面を焼き尽くし、兵士の一人がこちらに気がついた。

「やっと見つけたぞ!!禍の民め!!」

 そう叫びながら兵士はためらうとこなく、心の臓に向かって剣を振りかざしてきた。火の粉が頬にかかり、まだ火の粉がまだ残っている気がした。体が鉛のように重く、全く力が入らない。動かない。

 動け、動け、動け・・・・!!!!!

レグルスの大きな背中から、剣が貫いた。レグルスの背中から赤い、炎よりも鮮明な赤色が枯葉色のくすんだ衣に広がる。じわじわと、着実に。兵士が剣を引き抜こうとした。

「やめろーーー!!!!!」

それでも鉛のように体に力は入らない。レグルスは、こちらを向いてぐったりとその場に倒れこんだ。

「おじいちゃん・・・」

昔そう呼んでこっぴどく怒られた。でも、そう呼ばずにはいられなかった。それを聞いたレグルスは、微笑み穏やかな声で言った。

「わしは、まだまだ老ぼれておらんわい。」

何かを、決心したように、しっかりと起き上がりヘキの頭を撫で最後の言葉を発した。

「お前の名前は、ヒトリエだ。二匹の鷲から生まれた、かわいい孫よ。」

 同時に、レグルスは赤い光となって山の炎と同時に消えた。その光は、レグルスの死を意味していた。跡形もなく。ヘキを残して。燃えていた炎はレグルスの魔法によるものであった。その炎は敵だけを焼き払い、死んだ兵士を除いて、森はいつもと変わらぬ姿をしていた。



 その姿を、声を、撫ででくれた手を、繰り返し繰り返し夢に見た。切り裂かれたように苦しくて苦しくて、息すらできなかった。

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