2-2 夏

 雨の音で、ヘキは目を覚ました。季節は梅雨であった。イルが去ってから半年が過ぎた。

 今日は雨足が激しい。トロに乗れないことを昔のように残念がることはなく、火を起こす準備を始めた。目を覚ますのが日に日に遅くなる頭蓋骨に変わり、ヘキが朝の準備を行うようになっていた。ヘキが頭蓋骨を起こしに行くと、そこに頭蓋骨はいなかった。

 

 イルよりも低いが、レグルルスよりも大きいおそらく大人であろう人影が入り口の布に現れた。これまで訪れたものは、ほとんどが夕方か夜であった。私たちは本来昼に隠れ、夜に姿を表す。そもそも、人が来ること自体が滅多になかった。こんな早朝に、一体・・・?ヘキは頭蓋骨が眠っていた部屋を離れ、鍋を手に取った。人影が、すぐそこに迫っていた。

 勢いよく天幕が開かれた。その瞬間、ヘキは強くなって目をつぶり、ただ力まかせに手を動かして、


ーカンカンカンカン!!!!


 鍋を勢いよく鳴らした。頭蓋骨まで響くような騒がしさであったが、鳴らすとこに必死だったヘキにその音は聞こえていなかった。この怪しい男をここから追い出さなくては・・・その使命に駆られていた。


「さっさと出るぞ!!」

 入ってきたのは、20代後半か30代くらいの男性で耳に両手を当て叫んでいた。しかし、ちっとも聞こえなかった。男は黒髪に黒がかった青い目をし、イルよりも小柄で変わった服装をしていた。盗賊の類かと思ったが武器は持っておらず、綺麗な身なりであった。

(よし、盗賊じゃないならビビって逃げ出すかもしれない!)

鍋を叩く手が遅くなり、やがて骨に響く音が止んだため男が耳から手を外した。


「今すぐここを出るぞ!さっさっと準備しろ!」

「は・・・?」

少年は意味がわからず首をかしげる。

「あぁもうお前が悪いんだからなぁ!!!」


 男は荒げながら逆ギレしてそう言って、気づけば目の前にいた。瞬間、腹部に強烈な痛みが走り、そこで少年は意識を失った。少年は気がついていなかった。火の粉がすぐそこまで迫っていたことを。


    


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