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 夏が通路に出ても異常事態は解除されない。通路でも激しい赤色の点滅と大音量の警報が鳴り響き続けている。状況は変わらない。きっと研究所の全体がそうなのだろう。夏は朝の時間に、いつも通りランニングをしているときのように、立ち止まらずに、床の上で足踏みをしながら考える。

 夏は開いた通路の先を見る。それから周囲を一度観察する。

 なんだろう? 誘導されている? それはまるで今すぐにそちらに向かって移動して、その先にある出口から(きっと出口も開くのだろう)研究所の外に出ろと誰かに言われてるように思えた。……その誰かとは遥しかいない。研究所の意思とはつまり遥の意思なのだ。(だってここは木戸研究所なのだから)夏は短い思考の中で、その意味を遥からの伝言だと解釈をした。

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