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 もしそうなのだとしたら、あるいは遥はすでに研究所を脱出していて(きっと夏はなにか深い理由があって、仕方なく一人であの部屋の中に取り残されていたのだ)澪と一緒に連れ立って、そのドアの向こう側で夏が自分たちのことを追いかけてくるのを待っていてくれるのかもしれない。(そこにはきっと真っ白な姿をした木戸照子も一緒にいるのだろう。緊急時なのだから、外に出られないとは言っていられないし、それなりの準備を遥ならしているのだろうし……)

 その考えは正しい考えのように思えた。(きっと研究所に籠城できない類のなにかが起きたのだ。それがなんだかはさっぱりわからないけど)そうだとしたら、一秒でもじっとはしていられない。夏は足踏みを速めて、そのまま勢いを止めずに、出口に向かおうとして、あるものを見て、……足を止めた。

 ……なんだ? ……今のは? 

 なにかが一瞬、視界の中に入った。なにかが見えた。……なにかがいた。(それは人の影のように思えた)

 夏は痛む肩を抑えながらそのなにかが見えた出口とは反対側にある通路を見る。その先は行き止まりになっているはずの通路がある。普段は白い壁があるだけ。……その壁が、開いている。激しい点滅を繰り返す赤色の世界の中に、ぽっかりと真っ黒な縦長の長方形の四角い穴が空いている。(確かにある。幻覚ではない)……その穴は確かにそこに存在した。どうやら奥に隠し通路があったようだ。

(これだけ広大な研究施設の中心にある研究所なのだ。部屋がたっか四つだけということはない。こんなに狭いわけはないのだ。どこかに必ず私に隠している通路や部屋があるとは思っていたけど、……やっぱりあった。それはきっとここだけではなくて、ほかにも、もっとあるはずだ。もしくはあの暗い穴は、まるで一度入ったら二度と出られない神話の迷宮のように、永遠に思えるほど深く、広く、地下の空間の中に広がっているのかもしれない)

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