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みんなで行けば怖くなんてないよ。きっとそうだよ。世界は驚きに満ちている。純粋な思考。私たちの好奇心を満たすような感動で溢れてる。涙が自然と流れるような奇跡で満ち溢れているんだよ。(こんな暗い場所に閉じこもっているから、奇跡、奇跡ってなっちゃうんだよ)
私もそれを探したい。三人で冒険に出かけようよ。三人ならどこまでだって行けるよ。月とか、火星とかさ。金星とかにもさ。そういう場所にだって行けるよ。私たち三人ならさ、きっとどこまでも行けるよ。そう思わない? 澪。私たちさ、きっとすごくお似合いなんだよ。そんな広い世界を見て、澪が満面の笑みで喜ぶ姿を夏は空想する。(空想する主体である夏の顔も笑っている)
跳ね返るように画面の中を泳ぎ回る澪。とても透明な色をした少年。(それは夏の中での人間の澪の姿だ)夏の大切な友達。新しい親友。
世界の果てにある木戸研究所で夏が手に入れたものは決していなくなった遥の愛情だけではない。遥の笑顔や遥のキスだけではないのだ。今までの人生の中でも、たくさんのものを瀬戸夏は失って、……でも、その代わり、それと同じくらいたくさんの大切なものを手に入れてきた。(人生はきっと質量保存の法則のように、ただ命が失われるのではなくて、等価交換の原則で動いているのだ。人生とは誰かとなにかを交換することなのだ。なにかを誰かから受け取って、その分、自分のなにかを誰かに受け渡しているだけなのだ。生きることはエネルギーの移動なのだ。そんなことに夏は初めて気がついた。自分は失ってばかりだと思っていた)
人生は最悪じゃない。(限りなく最悪に近いけど)救いだってきちんとあるのだ。……ありがとう。神様。願いを叶えてくれて。あとは自分の力でなんとかやってみます。
夏はドアの抜こう側に勢いよく駆け出していく。
遥がいなくなったからっぽな、遥の思い出しかない、遥の抜け殻のような部屋の中に未練はない。
通路に出ると今度は研究所の通路を二つに隔てている中央のドアが勝手に開いた。それはまるで部屋から飛び出してきたばかりの夏に『そっちに行け』というメッセージを送っているような、……そんな絶妙なタイミングだった。
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