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「澪!! きてくれたのね!」夏は叫んだ。

「澪。よかった。大丈夫? なんともない? どこか怪我とかしてない?」夏は澪にしゃべりかける。

 しかし画面のクジラはしゃべらない。まるで意思を持たないスクリーンセーバーのように画面の中で同じ動作を繰り返すだけだ。そんな澪を見て夏は疑問を抱く。

 なにかおかしい。これは、もしかして澪じゃない? 夏は白いクジラを観察する。それは澪であって澪でないもの……。澪ではない別の、白いクジラのように見える。(魂の存在を感じないのだ)しかし断定はできない。人間である夏の目にはクジラの(それも画面の向こう側にのみ存在する人工知能の)個体種を見分けるような観察眼は備わっていない。

「澪、ねえ、あなたは澪なの? それとも違うクジラさんなの?」夏は白いクジラに問いかける。白いクジラから返事はない。

 それでも夏は諦めない。なんとか画面の中の澪(と思われるクジラ)とコンタクトをとろうと必死にノートパソコンの前でもがいている。具体的には声をかけたり、キーボードをめちゃくちゃに叩いたりしている。そんなことをしていると少しして、夏の背後でなんの前触れもなくドアが開く音がした。

 夏はドアの開閉音を聞いてすぐに後ろを振り向いた。それは幻聴ではなくて、本当の音だった。ドアは開いていた。あれだけ頑張っても努力しても開かなかったドアが、……今は開いている。

 夏は振り返ってノートパソコンの中のクジラをもう一度見つめる。

「……澪、あなたが開けてくれたの? それともあなたは澪ではないの? それともなにかの理由があって、あなたはもう喋ることができなくなっちゃったの? 本当のクジラになっちゃったの? 私はもうあなたに会うことはできないの? ねえ? なにか言ってよ、澪。お願い、澪。言葉にしてくれないと、……私、ばかだからなんにもわかんないよ」

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