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 夏は遥の顔を思い浮かべる。たくさんの遥。夏の中にいる遥。そこには確かに遥がいる。(遥はいつも夏の中で笑っている)でもそれは本当の遥ではない。夏の中にはいない本当の遥。夏の言う通りにはならない現実の遥。ずっと笑ってばかりではない、泣いたり怒ったりする不機嫌な遥。

 私は遥に会いたい。そのためにずっと生きてきた。そのために長い道の上を歩いてきた。素顔の遥が見たかった。本当の遥に会いたかったんだ。夏は胸の上で自分の両手を硬く、祈るような姿勢で握り合わせた。

 ……神様。遥を守ってください。

 ……遥。お願い。どうか、どうか無事でいて。……夏は順番に二つのことを、目を閉じて、暗闇の中で、願う。

 すると近くでうぃーん、というノートパソコンの起動音がする。爆撃されている街中のような激しい警報の音の中で、なぜかその小さな音は夏の耳にいつもよりもはっきりと聞こえた。きちんと届いた。その音が聞こえた瞬間、夏は反射的に体を跳ね上げた。夏の体に急激に力が蘇ってくる。少し休んで空っぽになった電池の充電ができたみたいだ。夏はすぐに行動を開始する。サイドテーブルの前まで移動してノートパソコンの画面を確認すると、そこには白いクジラがいた。白いクジラが画面の中を泳いでいるのがはっきりとわかった。

 澪! きてくれたの!! 夏は心の中でそう叫んだ。そしてそれはすぐに実際の言葉に変換された。

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