281

「はるか」

 照子が遥の体を揺らす。でも遥は動かない。なにもしない。照子に笑いかけたり、照子に話しかけたりしない。ただ頭から血を流しているだけだ。遥の頭に穴があいている。その穴の中を照子は興味深そうな瞳をして見つめている。その穴から血がどんどん出てくる。止まらない。永遠に止まらないように思える。照子は遥の頭の穴に顔を密着させる。耳を当てて音を聞こうとしたり、小さな鼻を突っ込んで匂いを嗅いだり、目をくっつけて、そこからじっと穴の中を覗き込んだりする。照子の顔面は真っ赤になる。遥の流した血が照子の顔を赤く染める。やがて照子は目を穴にくっつけた姿勢のままで、ぴくりとも動かなくなる。

 暗い夜の世界の中。そこには照子と動かなくなった遥だけが存在している。

 照子も動かない

 とても長い時間、照子はそのままの姿勢で動かなかった。(もしかしたら照子は遥のものまねをしているのかもしれない)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る