204
「でも、それじゃあ寂しいよね。限界がないからこそ人って頑張れるんじゃないかな? 未来が良くなるって信じられるからこそ、今を全力で走る力が湧いてくるんじゃないかな?」
「未来なんてどこにも存在しないよ。だから良い未来も悪い未来もない。私たちが、つまり命がもっとも恐れている現象は停滞することだよ。止まってしまうことなんだ」
「停滞? どういうこと?」
「そのままの意味だよ。止まってしまうこと。立ち止まってしまうということ。生命とはつまり速度のことだからね。生命として誕生した以上、命は立ち止まることはできないし、また立ち止まる必要もない。もしくは、立ち止まってはいけない」
「テストで百点をとっても意味がないんだね」夏は言う。(ちょっと話が飛んでいる)夏はテストで百点をとったことはない。夏はフレームという話をしている。テストの外側の世界に(教室という箱の外側に)目を向けろと言っているのだ。
「テストを作ったのも人間の先生だからね。でもテストで百点を取ることは無意味じゃないよ。とても大切なことだよ」遥は言う。遥はいつもテストで百点ばかりをとっている。
「必要がない」夏は遥の言葉を繰り返す。
「停滞とは存在がなくなること。それはつまり死そのものだから」遥は言う。
夏はゆっくりとフォークをテーブルの上に置いた。お腹は満腹になり掛けている。だけどテーブルの上に置いてある、せっかくの夏のご褒美であるクリスマスのチョコレートケーキは、まだ半分も残っている。……遥が全然食べないからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます