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夏の回想
校庭
早朝の晴れやかな人気のない学園の校庭を夏は一人で走っている。走ることは夏の趣味だった。毎日走る。雨の日も風の日も走る。走るときは一人になれる。自分だけの時間。なんて贅沢な時間なんだ。全身に汗をかく。息が切れる。とても苦しい。体中が悲鳴を上げている。それでも夏は走ることをやめない。腕時計を確認する。かなりの好タイムだ 。夏はラストスパートをかける。
……ゴールまでもう少しだ 。走る速度の中で、透明な風の中で、夏の心からたくさんの噓がぽろぽろとこぼれ落ちていく。身にまとっていたたくさんの言い訳が、夏の体から次々にはがれ落ちていく。(それらはもういらないものだ)どんどんと自由になっていく。このときだけ夏は背中に小さな二枚の翼を与えられたかのように体が軽くなる。まるで自分が今、上空に見える青色の空の中を飛んでいるような気がする。走ることで夏は再生していく。
これが本来の私なんだ、と夏は思う。夏自身忘れてしまった本当の自分。早朝の澄んだ風が夏の噓を全部吹き飛ばしてくれたおかげで、夏は本当の(嘘をつく前の、言い訳をする前の)自分自身と久しぶりに出会うことができた。その事実がとても嬉しかった。私の中にちゃんと私はいてくれた。今の私ならきっと遥も認めてくれると思った。
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