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 だって道は続いているもの。だからどこまでも行けるし、ちゃんと帰ってくることだってできる。夏は思考を繰り返す。あと必要なものは一歩を踏み出す勇気くらいのものだ。踏み出す勇気だけなのだ。夏がどこまで遠くに行くことができるのか? それを決めるのは他人じゃない。それを決めるのは夏自身だ。

 勇気の分だけ遠くに行くことができる。

 ならどこまでも走り続けてやる。伊達に毎日走っているわけじゃないんだぞ! 体力には自信がある。ランニングをすることができなかったことも影響しているのか、体を動かすことが楽しくて仕方がない。自転車を漕ぎながら、風の中で夏は笑う。

「……もう、さっきまで疲れた疲れた言ってたのにさ。しょうがないな。もうどうなっても知らないよ。一応言っておくけど、これは僕の責任じゃないからね」澪が言う。

「友達なんだからあとで一緒に怒られるんだよ」夏が言う。澪はなんだが納得がいかないようで夏の腕時計の中で頬を膨らませている。そんな澪はなかなか可愛い。

「男の子なんだから、このくらい我慢しなさい」笑いながら夏は言う。

 このころには、夏はもう澪のことが本当に好きになっていた。だけど人工知能の男の子は夏の好意には(あるいはその微妙な変化には)まったく気がついていないようだった。

 それは澪が小さな男の子だからなのか、あるいは澪が人工知能だからなのか、そのどちらが理由なのかは、夏には判断することができなかった。

 

 夏はドームの外周に続く道の上を走り続ける。すごく気分がいい。夏は一人、風を切るようにして自転車をとても速いスピードで走らせる。

 そして夏は実際にドームの外周にたどり着く。澪の説明を聞きながらドームの壁を見学し、その周囲を少し走ったあとで、満足すると、夏は適当なところで自転車の向きを変えて、今度は今走って来た道を全速力で戻り始めた。

 そのころにはもう空は暗くなり、日はすでに沈もうとしている時刻だった。

 そして二人が地下の研究所へ向かう森の中の駅に戻ってきたころには、もうすっかり世界は夜になっていた。

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