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 ある日、澪は遥と一緒に夏の夜の星空を眺めていた。場所は森の中に建っている地上の駅の屋根の上。それはたくさんの数え切れないくらいの流星が流れる不思議な夜だった。それはとても珍しい光景だった。星を見に行こうと遥が澪に提案したことも、とても珍しいことだった。珍しいことばかりが起こる夜だった。

 二人とも普段は地下に籠もりっきりで外には出ない。ずっと空とは無縁の生活をしている。

 澪はノートパソコンの画面の中から星を見上げる遥の顔を覗き込んだ。遥はじっと空を見ている。とても奇麗な目。強い意志を宿した眼差しをしている。

 遥の視線は空の先の先にある。遥は空ではなく、(せっかくこんなにも綺麗で幻想的な夜なのに)もっと遠くにあるなにかを見ている。澪にはそれが理解できたが、だけど肝心の遥が見ているその空の先にあるものを澪は見ることはできなかった。それがとても残念だったし、それがとても悔しかった。

 澪は仕方なく美しい流星の降り注ぐ夏の夜の星空を眺めて時間を過ごした。


 澪に見えないものを遥は見ている。そのなにかを澪は自分も見てみたいと強く願った、澪は遥の見てるものを自分もいつか見てみたかった。そのために日々勉強しているが一向に成果が出なかった。その度に澪は悲しい気持ちになった。でも勉強は続けた。これからも続ける。そしていつの日か遥と並んで歩けるような男になる。遥と同じ目線で、同じ世界を見ることができるような男になるんだ。澪はそんな思いを夏の夜空に輝くたくさんの流星に込めていた。

 それは澪の夢がまた一つ増えた瞬間だった。

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