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 その部屋の大きさや区画は今まで夏の見てきたたまご型の研究所の中にある三つの部屋(遥の部屋、照子の部屋、コンテナ室)とほとんど同じだった。

 夏は研究所の間取りを頭の中に思い描いた。北を上として、入り口から北にまっすぐな通路が一つ伸びている。通路の真ん中にはドアがあって、通路と区画を手前と奥の二つに分けている。奥の通路の左右の壁にはドアがあって、手前の通路には左側の壁にしかドアはない。

 部屋は四つ。奥の通路の東のドアの先にある遥の部屋と西のドアの先にある照子の部屋。手前の区画にあるコンテナ室と今、私と遥がいる通路側からは直接移動することができない、照子の部屋の中にある二つの指紋認証式のドアを通った先にある、遥の個人的な研究室兼照子のお世話をするための部屋。

 丸い形をした、たまご型の研究所に四つの区画。これが今のところの夏の知っているたまご型の研究所の全体図だった。

 ……だけど、これで全部というわけじゃないだろう。

 遥のことだ。きっと、どこかに隠しドアのようなものや隠し階段のようなものがあるに違いない。(シェルターの中に立て篭もるとか、言ってたし)それはいったいどこにあるのだろうか? 探してみてもいいけど、それを見つけることができたとしても、あまり意味はないのだろう。何故なら夏は遥の指を持っていないからだ。指紋認証式のドアを開けるときに遥が夏に笑って見せたのは、勝手に出歩くなと言う警告だけではなく、探しても無駄だよ、そっちのドアも鍵がないと開かないから、という遥からのメッセージが含まれていたのかもしれない。

 夏は入ってきたドアの前に立って、部屋の中の様子を観察する。

 色は相変わらず壁も床も天井もすべての面が白一色だった。部屋の中央には部屋の色と同じ真っ白な色をした小さい子供用のベットが置いてある。でもそれは普通の形をしたベットではなくて、病院の中にある手術台のようなベットだった。

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