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 奥側の壁にくっつくようにして置かれたスチールの棚にはたくさんの薬がいつくもの小瓶に詰められてぎっしりと置かれている。

 部屋の隅っこには床に四角いくぼみのある、(たぶん)シャワー施設。その隣にはトイレもある。(どちらも白いカーテンで視界を遮ることができるようになっている)

 横の壁には、ハンガーラック。クローゼット。それに大きめの白い箱が三つ置いてある。反対側の壁ぎわにはテーブルと椅子。そこには大きな長方形のディスプレイと備え付けの真っ白なパソコンがある。静かで清潔で無駄なものがあまり置いてなくて、消毒液の匂いがする、研究室というよりはどちらかというと、病院のような空間だと夏は思う。


 遥は歩いて部屋の中央にある小さなベットのところまで移動する。

 夏も遥についていく。小さなベットの脇には車輪のついた小さな移動型のテーブルがあり、その上にはタブレットが一つ置いてある。タブレットはディスプレイのある表面とは逆向きに置かれていて、その背面には大きな文字で『あまもりてるこ』という名前がペンで書かれたシールが貼ってあった。手書きの文字。なんとか辛うじて読み取ることができる、と言うレベルの、大きく歪んだいびつな文字は明らかに遥の筆跡ではなかった。遥はお手本のような、とても綺麗な文字を書く。おそらく照子が時間をかけて自分で書いたのだろう。(雨森は照子の旧姓だ。旧雨森研究所時代の照子の名前。どうして現在の本名である木戸照子ではなくて、旧姓の雨森照子という名前を照子はシールに書いたのだろう?)


 遥は誰もいないベットの上を、そっと一度優しく撫でてから、そのまま直角に曲がって歩いて、パソコンのあるテーブルの前にある椅子に座った。遥はそこから夏を観察する。

 夏はベットの周辺を観察したあとで、遥を見てにっこりと微笑み、それからゆっくりと歩き出して、部屋の中の細かいところの観察を始めた。

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