73
地底湖にて
夏
……きっと私は、空気みたいに透明な存在なんだ。
クリスマス、と言っても特別なにかをするわけじゃない。夏は真っ暗な空洞の中、上空を見つめながら考える。でも、私がこの日、この場所にいるのは偶然じゃない。クリスマスと、その前日に当たるクリスマスイブの二日間は夏にとって最高の記念日だった。クリスマスイブは夏が遥と初めて出会った日。二人の大切な記念日。クリスマスはその次の日。記念日のおまけの日。(その日もお昼頃まで遥は瀬戸家にいた)
だからこそ私はこの日に合わせてここにきた。今日この場所に私がいるのは必然だ。
でも、まさかクリスマスに、こんなことをすることになるとは想像もできなかった。遥は本当にここで研究をしているのだろうか? 遊んでいるだけじゃないのか? そもそも天才にとっては仕事と遊びの区別なんてないのかもしれない。軽い波に揺られながら、夏は地底湖に浮かぶ白いボートの上に寝そべっている。夏は水着に着替えをしている。白い水着。それは遥が貸してくれたものだ。水着に着替えをした夏は同じく遥に借りた灰色のパーカーをその上に羽織っている。
地底の暗闇の中には、ところどころに明かりが灯っている場所がある。卵みたいな丸い形をした木戸研究所の形もぼんやりとだけど見える。研究所は周囲の光を反射して、淡い白色の光を放っている。こうして暗闇の中に浮かんでいる白い球体の建物はやはり宇宙船のように見える。それにどことなく、子供のおもちゃのようにも見える。夏は本物の宇宙船を見たことはないのだけど、案外今と同じように、それはおもちゃのように見えるのかもしれない。きっと作っている人たちが子供なんだろう。遥を見ているとなんだか納得してしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます