41
シャワーを浴びて夏の意識が復活した。
夏は浴室を出ると、濡れた体のまま脱衣所に移動する。
大きな白いタオルで体を拭いて、新しい下着を身につけて、持ってきたパジャマに着替えをする。青色で統一されたパジャマ。それは夏のお気に入りのパジャマだったのだけど、さっきまで制服の上に着ていた服も青色のジャージだったので、着替えてみるとあんまり格好が変わらなくて少し恥ずかしい。遥を探すのに夢中で服装はほとんど気にしていなかった。
失敗したかな?
青色は夏の一番好きな色だった。
「ただいまー」
夏が部屋に戻るとそこに遥はいなかった。……待ってるっていったのに。約束したのに。相変わらず遥は自分勝手だ。夏は自分を棚に上げてそう思った。それから少しだけ腹が立った。
遥はどこに行ったんだろう? 照子の部屋だろうか?
照子も椅子に座ったまま眠るわけじゃないだろう。どこかに就寝する場所があるのだ。きっと秘密の部屋がある。……どうしよう? 私もそっちに行こうかな?
夏は照子の部屋に移動するか、このまま遥の部屋に残るかで迷ったが、やっぱり部屋で待つことにした。
待つことは夏の得意技だった。
夏はしばらくの間、ベットの上に腰を下ろして、部屋の様子を観察したりしながら大人しくしていたが、やがてコーヒーが飲みたくなったのでキッチンに移動した。
キッチンでピンク色のやかんを使ってお湯を沸かす。適当にいくつかの棚を開けるとインスタントコーヒーが見つかったので、自分のカップを洗い物置き場の中から発掘して、それにゆっくりとお湯を注いでコーヒーを淹れた。
とてもいい香りがする。
インスタントのくせに生意気だぞ、と夏は思う。
夏はコーヒーカップを持って遥の部屋に戻ってくるが、遥はまだ帰ってきていない。
することもとくにないので今度は椅子に座ってコーヒーを飲みながら遥を待つことにする。すると大きなディスプレイの画面が夏の目に留まった。画面の中を白いクジラが泳いでいる。夏はじっとクジラを見つめる。
こうしてじっくりと観察してみると、なかなか可愛らしいクジラだと夏は思う。
しばらくしてコーヒーを飲み終えた夏は椅子の上で体を丸める。
鼓動が少しだけ速くなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます