第10話 月の土地売ります
宇宙への進出はリスクが高いので、そのような事業を担う企業には宇宙人との貿易独占権などの様々な特権が与えられた。
月の土地を売っている会社がある(*1)が、これはその会社が月に侵攻するときに必要な費用を負担したそれぞれの融資者に土地を分配するという約束手形。政治権力が及ばぬ地の土地を所有するということは当然未来において領土として防衛・支配する公算があるということ。
月の土地は地上の政府による防衛力・統治が及ばないため、土地購入者や侵攻者達は、月の領土を自ら自衛すると同時にさまざまな自治制度を発達させた。それらの人々は自治のため莫大な権限を与えられ、「ブヴァール渓谷辺境伯」や「北アブルフェーダ連鎖クレーター総督」「シュレーディンガー峡谷公」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E3%81%AE%E5%9C%B0%E5%BD%A2%E4%B8%80%E8%A6%A7 といった爵位や役職を本国から与えられもしくは自ら名乗るものもあった。また、そのような月の爵位・特権が月の土地と同様に自由に販売されることもあった(侵攻を行う者が成功したら融通者に特権や爵位を与えるという約束のもとで侵攻資金を融通させた)。本国の政府によらない防衛力を得るため、騎士階級や傭兵、自警団などが広範に再発明された。彼らもしばしば裁判権や徴税権といった特権を有した。
13植民地時代のアメリカなどは、ヴァージニア会社やマサチューセッツ湾会社といった植民地会社によって開拓され、(初期のマサチューセッツなどのように)そのような会社や、あるいは(メリーランド https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E6%A4%8D%E6%B0%91%E5%9C%B0 などのように)国王に認められた領主によって支配されたが https://yamagata.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=4159&file_id=17&file_no=1、そのような形態は宇宙への植民でも広く見られることとなった。
また、植民地時代と同様、持たざるものが年季奉公人として自らの肉体のみを担保に宇宙へ行く費用を借金し、宇宙へ全ての可能性を掛けるといった事態も広く見られた。払えない債務により奴隷同然で使役される一方、己の肉体以外の何を持たず失うものも無い彼らは、荒くれ者や傭兵になったり、僻地で王を僭称したりして、しばしば月世界の秩序を脅かした。
(*1) https://www.lunarembassy.jp/shop/about
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