第3話 秋野菜の百鬼夜行

「今日は皆に集まってもらったが、禁止事項は前に言った通りだ! 周りに迷惑かけないようにしてくれ! イベントと言っても特に何をするってわけじゃない! 野菜の知名度アップが目的だから、街を練り歩くだけだ! ルートは街をぐるっと回ってこの公園に戻って来る! その後は自由解散だ!」


 声を張り上げて今日の説明を皆に伝える。

 百ほどの野菜達に囲まれた俺に、方々から声がかかる。

 

「さっつ~~~ん! いいぞ~~~!」

「サツマイモ屋~~~!」

「ハッピーハロウィーーーン!」

「イエーーーイ! 渋谷イエェーーイ!」


 皆やいやいと言いながら騒いでおり、収拾するのも面倒になる。

 収穫祭に人間と同じようにはしゃぐのもどうかと思うが、皆楽しそうなのでまあいいとしよう。


「……じゃあ、行くぞーーー!」

「おぉーーー!」


 俺の声が行進の合図になり、俺やなす兵衛、ジャックが先頭集団になり、他の野菜達も後を歩く。マッシュも俺達のすぐ後ろをついてきており、巨大な白い塊がぼよんぼよんと飛び跳ねている。


 公園を出ると、渋谷駅近くのガード下をくぐり、街の方に繰り出していく。


「いやー、すごい人だね」

「とんでもないな。渋谷、恐るべし……」


 駅を越えていくと、ものすごい数の人間が街を歩いているのが見える。

 巨大化した野菜の姿をした集団の俺達には、好奇の目――というよりは奇妙なものを見るような目が向けられるが、流石に街は仮装した人で埋め尽くされているため、少し変な仮装をしているくらいに捉えられている。


 日本一有名と言っても過言ではない犬の像を横目に、道玄坂を登っていく。


「どうもー! どうもどうもー!」

「すごいなあ、僕達大人気じゃん!」


 人ごみを掻き分けるように進んでいく俺達は、注目を浴びた。

 少しズレた仮装のように見える姿なのも、効果があるようだ。通りの騒ぎの中、手を振られたりもするので、しっかりと手を振り返して歩いていく。野菜のイメージアップが目的なので、こういった動作が大事だ。


「よろしくお願いします~~~! カブをよろしくお願いします~~~!」

「え、何これキモい」

「キモーーい、なんでカボチャじゃなくてカブなんだよ! このカブ! キモカブ!」

「そ、そんなあ~~~! 痛い~~~!」


 俺となす兵衛の横を歩くジャックは、カブの普及活動に夢中だ。アホみたいに全力でハロウィンを楽しもうとしているように見えたが、意外とちゃんとしている。

 ジャックは通りを練り歩きながら、くり抜いたカブで作ったランタンを配っているのだが、何故か気持ち悪い見た目に作られたカブのランタンは全く受け取られていない。今も、派手な格好をしている二人組の女の子から罵声と蹴りを食らっている。


 後ろを歩く野菜達も、女子大生の集団に写真を撮られている舞茸とナメコの妖精、いかつい男の集団にどつかれている里芋の妖精など、少しひやっとする光景もあるが楽しそうにしている。


「楽しいねえ! 街歩いてるだけなのにね!」

「こういうのもたまには悪くないな!」

「カブ……カブをお願いします~~……!


 先頭を歩いているだけの俺達も、雰囲気につられて楽しくなってきた。

 明らかに邪魔であり意味の分からない仮装姿の集団であるにもかかわらず、お祭り騒ぎに馴染んでいる。人前に姿を現すことも滅多にないため、純粋に祭りが楽しい。


「あ、マッシュ危ないよ!」


 坂を上りきり、交通規制がないところまで来てしまった所で、道を引き返そうか悩んでいると、跳ね回るマッシュが車道の方に出てしまった。


「おいおいマッシュ、はしゃぎすぎだぞ~~~~! 危ないから戻って――」


 ジャックがへらへらと笑いながら声を上げた瞬間、マッシュの体がボールのように跳ね上がる。マッシュがいた場所を、一台の車が通り過ぎていった。


「「「マァァ~~~~~~~~~ッシュ!!」」」


 車が通り過ぎていった後、歩道側に白い欠片がばらばらと降り落ちる。


「さっつん、マッシュがーーー!」

「マッシュ! なんてこった! こんな粉々になっちまいやがって……」


 車に跳ねられたマッシュ。道に散らばった白いマッシュの欠片を俺となす兵衛でかき集める。


「マッシュ……いい奴だったのに……くそ~~~!! ……あ、マッシュ」


 俺達の横で同じようにマッシュの欠片を拾い集めているジャックが上空に吠えると、欠片の影から通常サイズになったマッシュが姿を現す。


「おー、マッシュ。無事だったか」

「まあ……僕達妖精だから死なないしね」


 ぴょんぴょんと跳ねているマッシュを拾い、頭の上に乗せた。


「でも、車は気をつけないとね」

「そうだな……駅の方に戻るか」


 祭りの熱に当てられて変なテンションになった末の茶番劇を済ませた俺達は、駅の方に戻ることにした。

 渋谷の夜も更けていく。

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