第2話 イベント計画
「馬鹿かお前は。思いっきりハロウィンに乗っかってるじゃねえか」
「だ、だって~~~! 一番盛り上がるイベントじゃん!」
ジャックの提案は正直がっかりだった。
端的に言えば、秋野菜の妖精達を総動員してハロウィンの日に渋谷を練り歩く、というだけだった。近年の日本でのハロウィンの盛り上がり方をガッツリ意識しての提案も、浅知恵が透けて見える。
「プライドないのか、お前。ボチャをぶっ殺すとか言ってたのは何なんだよ」
「いや~~、ちょっと言い過ぎちゃったかな? カボチャ野郎はむかつくけど、やっぱりイベント楽しむのが大事だし~~? みたいな?」
「まあまあ、さっつんも荒っぽいことは言わないで……ハロウィンも楽しそうでいいじゃない」
「しかしなー、野菜の妖精としてのプライドがなあ」
日本での勤務の長い俺は、どちらかというと地元のお祭りを支援する方がいい。
というか、日本ではぽっと出のお祭りという感じがするハロウィンで騒ぐのは、何というか格好悪いというか性に合わない。渋谷も遠い。
「え~~、ダメかな普通にハロウィン。人も集まるし知名度上がると思うんだけどな~~」
「どうしたもんか……」
「あ、マッシュ」
あまり乗り気ではないが、これと言って案もない俺はジャックの案に悩む。
畑の小道で話し込む俺達の所に、マッシュルームの妖精であるマッシュがやってきた。
白くてまん丸なマッシュは、俺達と違って何故か手足を生やしておらず、傍目には白い丸い塊がこちらににじり寄ってくるように見える。
手足どころか、目・鼻・口もあるのか分からずいつも無口だが、白くて丸くてツルツルしたフォルムのマッシュは、俺達のアイドル的存在だ。
「可愛いな」
「うん、可愛い」
「どうしたの? マッシュ。何か用あった?」
こちらに寄ってきたマッシュになす兵衛が声をかけるが、勿論マッシュからは返事はない。何やらぴょんぴょんと跳ねて何かを言いたいようだが、勿論何が言いたいのかは分からない。口作れよ、可愛いな。
「僕達、秋のイベントに何やろうか話してたんだけど、マッシュは何かある? ジャックがハロウィンの日に皆で渋谷に行こうって言ってるんだけど」
返事がないことは分かっているのにめげずに声をかけるなす兵衛。コイツも頭が弱い。
ハロウィン、という言葉に反応してマッシュがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「どうした、マッシュ」
「うーん、ハロウィンに参加したいの?」
なす兵衛の言葉に、マッシュが肯定するように上下にふるふると揺れ動く。
「さっつん、ハロウィンやりたいみたいだよ?」
「ほら~~~、マッシュもやりたいって言ってるじゃん! いいじゃん、ハロウィン! 渋谷に行こうよ!」
勢い付くジャックには少しイラっとするが、悩む。非常に悩む。
兄貴肌なキャラクターを装っているので、チャラチャラしたイベントは嫌いというように振舞っているが、正直ハロウィンに興味がある。というか、行きたい。仮装をしてはしゃいでみたい。
「……じゃあ、ハロウィンの日は渋谷に行くか」
「え、いいの! やった!」
「よっしゃ~~~! 渋谷をカブ色に染めてやるぜ!!」
「あんまはしゃぎ過ぎるなよ……他の奴等にも伝えないとな……」
喜んで大声を出してはしゃぐなす兵衛とジャック。マッシュもそれにつられてか、ぴょんぴょんと跳ねている。
人前に出ることは皆無な俺達なので、色々と準備が必要だろうと思うが、喜ぶ同僚達や初めてのハロウィンに、俺も少しわくわくしてきた。
細かいことは後で詰めるとして、今日は解散にすることにする。
喜んで跳ね回るマッシュが、畑の方に転がっていくのが見えた。
***
そうしてやってきたハロウィン当日。
俺達野菜の妖精は、渋谷駅の近くの宮下公園に集まっていた。
一応妖精である俺達は、人前に姿を現すことが禁止されているため、事前に調整が必要だったのだが、言いだしっぺのジャックは手伝わないわ、なす兵衛はクソの役にも立たないわで準備は俺が担当することになった。
まあ準備と言っても、上司である野菜の神様――面識はないのだが俺達野菜の妖精を束ねているということなので、その上司へのイベント参加の旨を報告した。
地元の神社でなむなむと拝む俺に、神様からのお告げがあった。
その内容は思ったより単純で、『野菜の妖精だとバレないこと』『人間くらいのサイズになること』『騒ぎすぎないこと』というくらいのものだ。人間サイズになれという指示は、仮装をしているように見せかけるためだろう。
「おーい、さっつん!」
「なす兵衛か。思ったより集まっちまったな……」
「いいじゃん、イベント事は人数が多いほうが楽しいよ!」
公園内にたむろっている、巨大化した野菜のような集団の中から、なす兵衛が駆け寄ってくる。米茄子の形のまま、そのまま巨大化したようななす兵衛はデカくて邪魔くさい。
ちなみに、俺達が難なく巨大化したり人前に姿を現せたりしているのは、妖精パワーという妖精だけに備わった力によるものであり、詳しいことは伏せる。というか、俺も詳しいことは知らない。渋谷に向かうのも、妖精パワーでビューンと飛んできたのだ。便利である。
「さっつん、俺も着いたぜ~~~~! 盛り上がってるな!」
「ジャックか」
「おいさっつん、ボチャの野郎来ないらしいぜ~~~! あの野郎、ハロウィン当日は忙しいとか言いやがって、全く調子に乗ってるぜ!」
「ジャックも来たね。そろそろ開始かな?」
ジャックも到着したので、そろそろ移動を開始をしようかと公園内を見ると、もの凄い数の野菜の妖精達が集まっている。
どう話が伝わったのか、夏野菜組合など他のグループの野菜の妖精達も集まってきているようだ。百を越す巨大な野菜が公園内でうごめいており、異様な光景となっている。
「よし、そろそろ開始にするか。皆! 注目してくれ!」
公園の中央に移動して、声を張り上げる俺に皆が注目する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます