第2話 排除
民進党新代表・枝野幸男は迷っていた。
前原から、「死を賭して談判する。後は君に任せた」という書状が届いたのは、2人の会見の直前だった。慌てて駆け付けた時には、すでに前原は、病院に担ぎ込まれていた。
「小池さんはわかってくれた」
意識を失う直前、前原は確かにこう言った。
だが本当に、小池を信じていいのか。
「枝野先生、AKB48がお好きなんですよね」
都内某所。開口一番、小池はこう言って微笑んだ。思わぬ切り出し方に、枝野は虚を突かれた格好になり、「ええ、まあ……」と頭をかく。
「私、アイドルのことはあまり存じ上げないんですが、朝ドラは割合に見るほうでしてね。『あさが来た』なんかも好きだったんです。それで、その主題歌の――」
「ああ、『365日の紙飛行機』」
誘い込まれるように、思わず曲名を挙げてしまう。
「そう、それ。あの曲が気に入ったので、秘書にCDを買いに行ってもらったんですよ。そしたらその歌詞に、こんな一節がありました」
その距離を競うより/どう飛んだか/どこを飛んだのか/それが一番大切なんだ
「……なるほど」
同じ日本新党で政治家としての歩みを始めた2人だが、その後の道はほとんど重なっていない。不器用に、己の節を通そうとしてきた枝野と反対に、小池は実力者たちの思惑を巧みに利用し、地位を高めてきた。
枝野は、自らの生き方を後悔はしていない。だが小池の華やかさが、まぶしく見えたことがない――といえば、それも嘘になる。
「枝野先生。これまで違う空を飛んできた私たちです。完全に分かり合うことはできないかもしれません。でも、それってアイドルなんかも同じでしょう? 時に競い合いながらでも、同じ夢を目指して飛んでいく仲間がいるのなら――」
「より大きなゴールにたどり着ける、ということですね」
「前原先生にも約束しましたが、私の側から、誰かを排除するということはありません。『それが希望』です。よろしいですね?」
枝野は深くうなずいた。
「お互い、足の引っ張り合いはなしです。『シン・ゴジラ』のように、一丸になって戦いましょう」
のちの話になるが、2017年9月29日、都庁。
解散直後の記者会見で、フリー記者の質問に小池はこう答えることとなる。
「今回の選挙、リベラル派の公認を拒否するなどということはあるのでしょうか」
「お答えいたします。『排除』するなどということは、さらさらありません。それが、私どもの目指す『寛容な保守』というものです」
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