第2話仮装コンテスト
仮装コンテストは、例年以上にいろんな意味で盛り上がりを見せた。
今年の仮装コンテストは、何ブロックかに分かれて行われるらしい。それほど参加者が多く、それほどみんな優勝商品がほしいのだろう。
「ファミ、なんか変な感じしねぇ?」
カルハが言う。変な感じ、か。確かにさっきから嫌な予感は張り付いて離れてくれる気配が無いが。
でも、確かにカルハの言うとおりこの場には無いはずの何かがいるような感じはある。その「何か」が何なのか全く見当もつかないんだけれども。
「うーん。魔力的にはっきり感じ取れるわけじゃないからなぁ。まだなんともいえないけど。一応いつでも出てける準備はしてあるから、ほら」
僕はそういって服の下に隠してあるペンダントをちらりと見せた。
「頼もしいな、ヒーロー」
「やめてよー」
カルハに僕がヒーローであることを知られてから、よくいじられるようになった。やっぱちょっと恥ずかしいな。うれしいけど。
仮装コンテストは、大歓声の中始まった。
仮装は十人十色で、見ていて飽きなかった。
少し離れたところに、兄ちゃんがいるのが見えた。真剣にコンテストを見ている。来年の仮装のネタでも練っているのかもしれない。
コンテストも早くも中盤。会場の熱気は冷める気配すら見せず、まだまだ盛り上がっていきそうだった。
『お次の方は……吸血鬼のコスプレのようです!』
……もう仮装じゃなくてコスプレって言ってんじゃん。これって何のコンテストだったっけ。
吸血鬼を装った猫は、何もしゃべらず、顔もフードを目深にかぶっているせいでよく見えない。
『あの……、アピールポイントを、どうぞ』
出場者は自分の番になったらアピールポイントを言う決まりになっていた。それなのに、何も言わない猫を不思議に思ったのか、司会者が言った。少し申し訳なさそうにマイクを向けた司会者の腕を、「それ」は掴んだ。
会場がざわめく。
司会者の腕を掴んだのは、猫の手ではなかった。
猿の手を、白くしたような。
会場が、悲鳴に包まれる。
猫ではなかった、「それ」が、司会者の腕を噛んだのだ。血を吸っているのか、「それ」の口元から血が滴る。
僕は、すぐにその場から動きだした。
誰もいなくなった簡易更衣室で仮装を脱いで、ペンダントから仮面とマントを取り出してつける。
任務、開始だ。
すでに被害者はいる。俺が戻ったときには増えているかもしれない。どうする。どうすれば被害を増やさずに解決できる?相手は本物の吸血鬼。物語の中だけの生き物だと思っていたのだ。弱点が物語どおりとは限らない。
俺がステージに戻ったとき、吸血鬼は次のターゲットを定めたところだった。司会者の猫は死んではいないものの、かなり血を吸われたようで、しばらく目を覚ましそうに無い。
ターゲットにされた猫は、腰を抜かしてしまっていて、座り込んでいる。逃げ惑う出場者たちの間を縫って、吸血鬼の前に立ちはだかる。
「ここから先は行かせないぜ」
吸血鬼は何もしゃべらない。
その場にいた猫たちの避難はまだ済んでいない。足止めをするか、誰もいないところに誘い込むか。どちらのほうがいい? どの方法が最善だ?
「あなたは何でアヨリ町に来たんですか?」
吸血鬼は答えない。
俺は吸血鬼の攻撃をうまく流しながら、特設ステージのある広場から少しずつ離れていった。
氷の魔力を使って相手が後退しないように進路を限定させつつ、たまに攻撃を混ぜる。
何とか周りへの被害を抑えて開けた場所まで誘導することができた。ここまで来れば、俺は周りを気にすることなく魔力を駆使できる。
〈氷封塊〉は、相手の目的がはっきりしていて、それが周りに悪影響だった場合のみ使う、と自分の中で決めている。まだこの吸血鬼の目的が聞けていない以上、俺はむやみに手を出すことはできない。
「あなたの目的は何ですか」
これでもう、何回目になるだろうか。俺がいくら問いかけても、吸血鬼は一言もしゃべらずに攻撃を続けてくる。
一体、この吸血鬼の目的は何なのだろう。
俺の任務はまだまだ続きそうだった。
(つづく)
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