ハロウィン番外編!ファミネコヒーロー

紅音

第1話ハロウィンがやってきた!

ハロウィン、それは、子供たちがお菓子をもらって楽しむイベントのはずだった。



 ここは、ニンゲンのいない世界。

 この世界にも、「ハロウィン」は存在した。


 騒動があったあの夏休みから早くも二ヶ月が過ぎ去り、風が冷たくなってくる季節になっていた。

 「なあ、今日ハロウィン前夜祭だろ? ファミは祭り行くのか?」

学校からの帰り道、カルハがハロウィン前夜祭について話し出した。

 僕が住む、ここアヨリ町では、毎年ハロウィン前日に前夜祭が行われる。前夜祭では、夏祭りのように屋台が立ち並んだりする。夏祭りと少し違うところがあるとすれば、浴衣を着るのではなく仮装することだろうか。

 「そうだなぁ。多分行くと思うけど」

何か事件が起きなければ、ね。

 僕はヒーローなのだ。夜だけ活動する、正義の味方。限られたひとしか知らないことだ。家族にすら明かしていなかった。

 しかし例の夏休みの騒動で、幼なじみのメス猫ナタリと両親、そしてここにいるカルハには知られることになってしまった。

 「あー、なるほどね。何にもないといいけどな」

カルハが言う。理解者がいると、かなり活動がしやすくなる。

「何にもないといいけどね。でも何かしらある予感がするよ。きっとみんな浮かれちゃうからさ」

僕は足元を見ながら言う。前夜祭を楽しみたい気持ちはもちろんあるが、僕のするべきことは町の平和を守ることだ。仮にこの町で何もなく前夜祭が予定通り開催になったとしても、もしかしたら別の町で何かがあるかもしれない。いける範囲なら、どこへだって行かなくては。

 「じゃあ、もし行けるってなったらカルハの家行くよ」

「おう、さんきゅー」

カルハと別れ、自宅に向かう。

 「うわー」

僕の家はハロウィン仕様になっていた。誰だまたこんなに凝ったやつ…。

「あ、おかえりー!」

屋根の上から声が降ってきた。こんなに張り切ってるのは兄ちゃんか。うちの長男は大人になっても祭りが大好きだ。

「ただいま。兄ちゃん、その年にもなってお菓子もらえると思ってんの?」

「どーだろなぁ。うまく仮装すればもらえるんじゃないかと思ってるけど。もらえなかったらあげる側になればいいだろ。おれは祭りを楽しみたいだけさ」

さすがは兄ちゃん。お菓子目的でハロウィン参加してるのかと思ってたごめん。

 自分の部屋に行く。部屋の窓はわずかに開いていて、そこに天ノ鳥通信が挟まっていた。どうやら今回はハロウィン特別版だったらしく、箱がセットでついてきていた。一体あの大きさの天ノ鳥は、どうやってこの箱を持ってきたのだろうか。不思議だ。

 箱の中身は黒いローブだった。ええっと、あれだ。物語に出てくる吸血鬼が着ているような。

「こんなもん配ってどうすんのさ……。みんながみんな吸血鬼の仮装しても困るって」

本誌のほうを取りだす。

 本誌は、特に事件性のある記事は無かった。よかった、前夜祭には参加できそうだ。

 「ファミ、今日の仮装決まってるのか?」

「んー? 去年と同じでいいかなって」

去年は頭にかぼちゃの被り物をかぶって参加した。「パンプキンマン」という作品が流行ってたからだ。ちなみに「パンプキンマン」は、現在も発行部数を伸ばしている。

「去年と同じ? そんなの駄目だ! ほら、ちゃんと用意してやったから! これ着てけ」

兄ちゃんが紙袋を手渡してくる。準備がよすぎるぞ。

「ありがとう」

どうやら手作りのようだ。今回は狼男。

 仮装というよりコスプレに近いよなと思いつつ、僕は袖に腕を通した。

 着替えが済み、手荷物も確認し終わったところで、僕は家を出た。

 町はもう、仮装した猫たちでいっぱいだ。

 今日は前夜祭なので、子供たちはお菓子をもらいに行かない。彼らの本番は明日なのだ。今日は存分に祭りを楽しむのが暗黙のルールらしい。

 カルハの家に着いた。

「お、来れたんだ、よかったな!」

カルハが出てきた。彼は騎士の仮装をしている。去年は勇者だったので、剣を持つのが好きなんだろう。

「何かあったら、すぐに行かなきゃだけどね」

僕は答えた。このまま何も無いといいな。

 「あれ、ファミとカルハくん?」

遠くのほうで手を振っていたのは、ナタリだった。彼女は、今年は魔女の仮装をしている。去年は、確か小悪魔だったかな。

「今年は魔女なんだね」

「ファミは狼男? 一瞬ただ奇抜な服を着てるだけかと思ったよ」

「何だそれひどい」

去年もパンプキンマンでなんかいじられてた気がする。どんなことだったかは忘れちゃったけど。

 前夜祭では、町の中央広場に特設ステージを設けて、出し物をやったりする。

「あ、ふたりは仮装コンテスト出るの?」

そのメインイベントが、仮装コンテストだったりする。

「僕は遠慮しておくよ」

兄ちゃんが作った衣装は、今年も完成度が高いんだけど、もしものときにすぐ動けなくなるのは困る。

「ファミが出ないならパスかな」

カルハも出ないらしい。

「えー、仮装コンテストで優勝できたら、前夜祭に出てる屋台全部ただでできるようになるんだよ?」

そう、大事ならこの景品だ。今年の仮装コンテストでは、優勝者は屋台全て無料、準優勝は割引になる。屋台飯は結構値が張るから、かなりお得なのだが。

「みんな今年も完成度高いからねぇ。さっきバクラくん見かけたけどすごかったよ。お金持ちで屋台飯でも困らなそうなのに優勝する気だよあれは」

やっぱりか。バクラが越してきてからは、ずっとあの一家が優勝をもぎ取っている。僕からしたらそれ以上の仮装もあったのに。賄賂でも渡してるのかあの家族。

 そのあと、僕らは屋台のある通りを練り歩いた。

 すれ違う人の仮装を見るのは楽しかった。同じテーマで仮装をしていても、全然違うもののように見えたりとかした。これって仮装のテーマでいいんだ、というものもあって面白かった。

 大体の屋台を見終わり、僕らは特設ステージに向かった。

『さあ今年もこの時間がやってまいりました! 仮装コンテスト!! 今年の優勝は一体誰に!? なんと今年の優勝者には今日と明日、全ての屋台での買い物が無料になります!』

「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!」」」

『なお、準優勝者は半額! まだまだ参加者募集中! 皆さまどうぞご参加ください!!』

現時点で参加者はわからないが、相当いることだろう。

 「参加しようかな」

ナタリが言う。

「いいんじゃない? 優勝できるかはわからないけど、いいところまでいけると思うよ」

僕が言うと、

「いいところって中途半端ね! 出るからには優勝目指すに決まってるじゃない!」

と、受付のほうに駆けていった。

「ファミ、ナタリちゃんの扱いに慣れてんね」

「まあ、長いこと幼なじみやってるからね」

 僕たちは特設ステージに集まるコンテスト参加者を眺めた。

「今年も何事もなく終わるといいな、ハロウィン」

僕のちっぽけな願いは果たして叶うのだろうか。


(つづく)

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