第4話 料理好き男子


陽斗の仕事は調理師だ。



老人ホームの利用者さんにご飯を作ったりしているので、普段の料理もお手の物。

付き合い始めて初めて陽斗の家にお邪魔した時に、手料理を食べさせてくれたのだが、これがとっても美味しくて…!

私が陽斗の胃袋を掴むどころか、私が逆に胃袋を掴まれた感じになり

美味しさのあまりおかわりまでしてしまった。







食事が終わり、洗い物のお手伝いをしながら陽斗に聞いてみた。






「料理は昔から好きだったの?」




そう聞くと洗っていた食器から目を離し、天井を少し見上げるようにうーんと考え思い出しながら言葉を発した。




「昔…からかな?母さんの料理してる姿好きだったし……自分も料理するの好きだったからなぁ」




「だから、調理の専門行って職業にしたんだ」




陽斗は苦笑し手を動かしながら「でもさ…」と続けた。




「実は結構迷ったんだよね…料理するのも好きだったけどさ、車も好きだったからさ…車関係に進むのもいいなって思ってたんだけど仕事してる想像つかなくってさ!車は趣味だなって思って調理したんだよ」




あははと笑いながら話した。






私はその横顔を見ながら、調理してる姿を思い出していた。

骨ばった男らしい手が包丁を握り、リズムよく食材を切ったり、味見をする姿、無駄のない動き…エプロン姿の陽斗。





職場でもあんな風に作ってるのかなと想像すると、なんだか胸のあたりがムズムズして口元がにやける。




いい……

調理してる陽斗。

私のツボかも…





「…真琴?」




キョトンとした顔が私の顔を覗き込んできた。



「…!ごめん、ちょっと考え事してた」





「…ふーん、まあいいけど。なんとなく想像つくし」




「えっ!うそっ!」




ばっと腕で顔を隠くし、蛇口を止めた陽斗にちらっと目を向けると濡れた冷たい手が私の手を取り、顔からどかし陽斗の顔が近づいてきてた。



あ…キスされる。



そう思ってぎゅっと目を瞑るとおでこに柔らかい感触が触れパッと目を開ける。






「え……なんで、おでこ?」




そうつぶやくと陽斗はニヤリと笑った。




「唇がよかったの?」




私は火がついたように真っ赤になった。




「う、いや…違くて、えっと…おでこでも……じゃなくてっ!」




慌てふためいてる私に陽斗は笑いだし、濡れた手を拭いて私の頭を撫でた。





「………陽斗って、たまに意地悪だよね」




まだ少し熱い顔でむくれながら言うと優しい笑みを浮かべ、




「好きな女の子には意地悪したくなるものですから」




すると不意打ちで触れるだけのキスをしてきた。

何が起きたのか分からなくてキョトンとしてると、





「お望みの唇ですけど…どうですか。もっとする?」





してやったりという顔に、負けず嫌いが発動し陽斗の服を掴み、背伸びをしてキスをした。




ゆっくり離れると顔を赤くした陽斗が口元を手で隠しながらそっぽを向いた。

その姿を見て得意げに言った。





「どうする、もっとする?」




横目でチラッとこちらを見て、「真琴さん…卑怯だ」と答えた。




意外と陽斗は予想外の出来事には弱いようだ。

頭の中でメモしてから、再び顔を近づけ自然と唇をつけた。








「今度は私が料理するね。何作ってほしい?」




「うーん…ポテサラ」




「ふふ、ポテサラ好きなんだ。了解!」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る