第2話 レオパルト2の使い方

 俺は、普通のどこにでもいる会社員である。情報部門にいるため、サーバ屋とも言われているが、実際の所はお守り役に過ぎない。そりゃ知識はある程度あるが、ハードウェア的にどっか壊れりゃメーカーのCEを呼び出して修理をしてもらい、サーバの構築だって基本的にはメーカーの仕事である。やる事と言えば、作業日報を残すくらいか……しかし、新人が来てからというもの、ことトラブルには事欠かなくなった。

「お前なぁ、どうすりゃこんな壊し方が出来るんだよ!!」

 温厚な俺だって、怒る時は怒るんだぜ?

 新人ったって、もう一年だ。いい加減「サーブスレイブ」を無闇に乱射するのはやめて欲しいものだ。

「インテルよりも青きもの。AMDより……」

「待てコラ、変な呪文唱えるなアホ!!」

 全く、変な度胸だけは付きやがって。

「取りあえず、ここの部署行って謝ってこい。俺は復旧作業しておく!!」

 かくて、サーバ室で負けられない孤独な戦いが始まった……。

 とまあ、これが俺の日常だ。なっ、面白くもないだろう?


 週末は異世界へ。

 何かのキャッチコピーみたいだが、俺と姐さん、ランボーはいつも通り会社のゴミ部屋へと集まっていた。空自の鈴木は三沢勤務なので、異世界合流である。

 よく、「新婚早々離ればなれで大変ね」などと言われたりもするが、向こうで会っているので何とも思わない。

「さて、行きますぞ!!」

 ボロボロの掃除用具入れを開けた瞬間、俺たちは真っ白な光りに包まれた。


 そうそう、今まで述べていなかった事があるのだが、異世界への転送ポイントは必ず同じであり、すぐ近くにある入場ゲートのようなもので軽く身分証のチェックが行われる。これが、混むのなんの……。

 一時間ほど待たされて初心者の街に入る頃には、いつもヘトヘトだ。

 いつもの喫茶店に移動すると、元々こちらの住民である、タマ、バルボア、アイリーンが出迎えてくれる。他の連中はまだのようだ。

「さて、次の依頼だが、こんなのはどうだろうか?」

 いつも通り、依頼書の束をから一枚引き抜いて見せたのは……


「依頼書(抜粋)


難易度クラス:SSS

 

 1.「魔王軍」と名乗る魔物の集団あり。実在の魔王とは関係なし。

 2.重火器で武装しており、対空装備もありと確認されている。

 3.現在確認されている情報は、別紙参照されたし。

 4・全ての魔物を殲滅せよ。


以上、武運を祈る」


 はぁ、これだ、これが戦車を買った理由である。

 はっきりって、ほとんど強力な魔物どもとドンパチばかりやっているのである。CV33のお供が軽装甲車両では、かなり無理があったのだ。

「さてと、状況はと……ほとんど要塞だな、これは」

 天然の森を丸々改造したようだが、森の外周を囲うように多分、七十五ミリ対戦車砲と重機関銃陣地が設置されていている。レオパルト2は大丈夫だが、CVにはちと荷が重い。12.7ミリ弾ですら装甲がもたないだろう。

「あら、うちらの存在忘れていない?」

 にゅっと顔を出したのは鈴木だった。

「おう、来たか」

 航空部隊様ご一行の到着である。俺は大体の話しをした。

「確かに防備は固そうだけど、この森の規模から考えて300体もいればいい方かな。ゴブリンクラスの小型のものでね。航空支援で道をこじ開ければ可能かな。WWチームに知り合いがいるから、対空火器はなんとかする」

 WWとはワイルドウィールズの略。真っ先に敵地に突撃して、レーダー網や対空火器を無力化するタフな連中である。

「よし、それじゃ、細かい作戦立てるか……」

 こうして、俺たちは資料を基に細かい作戦を立てていったのだった。


 目的地は、初心者の街からほど近い。翌、土曜日早朝、俺たちは作戦を実行に移した。ほど近い場所で爆炎が上がり、戦いの膜が切って落とされた。

 CV33とレオパルト2は縦一列の隊形を取り、敵陣に向かって突っこんでいく。本間の放つマーベリック空対地ミサイルが対戦車砲と機関銃銃座を纏めて吹き飛ばし、レオパルト2の百二十ミリ砲が、森からはみ出てきたゴブリンどもを根こそぎぶっ飛ばした。俺か? うん警戒兼指揮だな。

「二号車、一時。なんか持ってるヤツらがいる。最優先目標」

 レオパルト2の砲塔が恐ろしく素早く動き、主砲がど派手な咆吼を上げた。相手が持っていたのは、かなりの確率で対戦車兵器だ。戦車という乗り物は実に敵が多い。そんなこんなで森の入口に到着すると、一旦停止してレオパルト2チームが素早く下車戦闘準備を開始した。何かこう、戦車の使い方を間違えている気がするが、この際気にしないでもらいたい。実際問題、これほど密度の濃い森をレオパルト2で進むのは困難だ。

「バルボア、準備はいいか?」

 車長ということで、そのまま下車戦闘時のリーダーも兼任の彼に無線で声をかけた。

『問題ない。行くか?』

 豆戦車ことCVの本領発揮である。俺とタマはこのまま行く。

 ちなみに、陸戦装備も少々変更を加えた。姐さんはバレット、ランボーはM-60軽機関銃というオプションはそのままだが、普段使いのライフルはM-4カービンで統一した。魔法を使うアイリーンや斧を使うバルボアにも配備済みだ。ちとミスマッチではあったが……。

「鈴木、こちらポイントAから侵入。支援されたし」

『りょーかいであります。吠えろ500ぽんどぉ!!』

 まるで雷鳴のような凄まじい音が響き渡る。今日は気分でF-15Eにしたようだが、満載してきた無誘導五百ポンド爆弾をぶちまけたようだ。

「本間、どうだ?」

 直上で監視権支援に当たっているハリアーに聞いた。

「ウジャウジャいます!!」

 ……珍しい。いつも冷静に数を言ってくるのに。

「よし、ウジャウジャいるらしい。行くぞ!!」

 俺は小さくて可愛い戦車の八センチ連装重機関銃の安全装置を外した。そして、激戦へと突き進む!!

 豆戦車と下車戦闘チームとの連係プレイなど、もうなにも言わなくても出来てしまう。密集した魔物どもの塊を豆戦車が蹴散らし、残りを下車チームが各個撃破していく。それにしても、この世界の魔物はほとんどゴブリンで出来ているのかね? そのくらい多い。

 個体の能力は大した事はないが、数が数だ。並の冒険者では相手にならないだろう。

「それにしても、良し悪しだな。こんな場所、今の戦車じゃ通れん」

 このCVシリーズのサイズは軽自動車くらいしかない。こんな森の中を主力戦車すとしたら、まずは木々の伐採からになってしまう。この小回りの良さは数少ない武器の一つだ。

『RPG!!』

 無線でランボーが叫ぶと同時に、大砲のようなバレットの発射音。ギャーっと凄い悲鳴が聞こえ、前方で何かが吹っ飛んだ。

「おぅ、助かった」

 RPGというは、これほどまでに全世界に広まっているものはないであろうかという、対戦車ロケットシリーズである。狙われたのは、間違いなくこの豆戦車だ。

『姐さん、腰だめバレットは……』

『何か問題でも?』

 ……なんでもない。もはや、姐さんのトレードマークだ。

 ちなみに、この12.7ミリ重機関銃弾を使う対物ライフル、こんな撃ち方をしたら体を壊すので、よい子は真似しちゃダメである。

「よし、皆の衆。行くぜ!!」

 気を取り直し、俺たちは森の奥深く目指して侵攻していく。今回の目的は「魔物の殲滅」である。一匹たりとも残してはならない。

 森の中央に向かうにつれ、敵の反撃も強烈になってきた。敵弾が薄い装甲板の上を跳ね回る。生きた心地もしない。

「鈴木、ポイント……」

 手早く支援要請。瞬時にぶっ飛ぶ敵集団。

『おい、あれ何だ!?』

 敵の猛火の最中のため、狭いスリットからしか外が見られないが……おい、マジかよ。

 それは、確かに「戦車」だった。ただし、博物館級の骨董品。菱形戦車こと、世界初の戦車である「MkⅠ」戦車だ。あんなもん、どこから……。

「落ち着け。あんなのただのブリキのオモチャみてぇなもんだ。ライフル弾でも撃ち抜けるほど装甲は薄い。姐さん、バレットで集中砲火!!」

 我ながら鬼畜だが、遊んでいる暇はない。

『承知した。ぶち抜けばいいんだな?』

 無線を通して、ガチャっとバレットを構える音が聞こえ……。

 ドドドドドコーン・・…。

 ら、ラッピド・ファイア。ああ、早撃ちの事な。

 あんなバケモンライフルでやるとは、惚れそうだぜ姐さん!!

「……クリア」

 菱形戦車は火だるまになり、さらに燃料に引火したか、大爆発を起こして辺りにいた連中も巻き込んだ。やれやれ、ご苦労さん。

 こんな調子で森の中央部も制圧し、残党狩りをちゃっちゃと済ませ、依頼は無事に終了した。ランクで言えばAクラスの手応えだが、まあ、これもよくある事だ。楽に越した事はない。


 中途半端な時間に依頼が終わってしまい、日没までに初心者の街に帰れなくなってしまった。

 なるべくなら、夜間行動は控えるのがこの世界の鉄則だ。航空隊は帰投したが、俺たち陸上チームは、途中のフェネクという小さな村で一泊することにした。

 一件しかない宿に部屋を取り……あー、ランボーと姐さんは一部屋、俺とタマで一部屋だ。二部屋しかないんだから仕方ない……晩飯をと、これまた村で一件しかない定食屋に入ったら、なぜかそこにいた村人さんたちに大歓迎された。

 なんでも、普段同じ顔ばかりしかみてないからつまらん。よその話しを聞かせてくれ!! だそうで、まあ、刺激に飢えるのが人間という生き物だ。

 そんなこんなで時計もてっぺんを回り、宿に戻ってみると一人の少年が出迎えた。服はボロボロで傷だらけ。明らかに尋常ではない。

「おう、坊主。どうした?」

 捨て置くわけにもいかず、俺は声をかけた。

「はい、仕事をお願いしたいのです。昨日の事ですが、盗賊の手合いに村が襲われまして……」

 まあ、要約するとこうだ。この少年の名はチャグ。細長い耳が示す通り、人間社会に溶け込んで暮らす珍しいエルフ一家の子だったが、昨晩盗賊の一団に襲われ、村はほぼ壊滅。幸い彼の一家は無事だったが、村の再興が危ういほどのダメージを受けたらしい。

 そこで、俺たちへの依頼はこうだ。この盗賊団を始末して欲しい。復讐ではなく、これ以上の被害を食い止めるために……だそうな。

「よし、話しは分かったが、それなら依頼斡旋所に出せばいいと思うが?」

 情報が全く足りない。これでは、作戦の立てようがない。斡旋所に出せば、その辺りはちゃんとかき集めてくれる。高い仲介料を取る分の仕事はするのだ。

「それなのですが……」

 彼はモジモジとしている。トイレ……なわけないな。

「大体予想は付いている。言ってみろ」

 俺が促すと、少年は見るからにスカスカの財布を取り出した。

「その、依頼料もない有様でして……」

 少年が出したのは、銅貨三枚だった。さっきの定食屋でメシも食えない」

 俺は一同の顔を見渡した。はっきり書いてある「やれやれ……」と。まだ何も言ってないぞ。俺は。

「分かった。指名依頼を条件に立て替えておいてやるよ。依頼所に依頼を出してから……まあ、一週間もあれば必要な情報が集まるだろう」

 依頼には二種類ある。このパーティーがいいという「指名依頼」と、どこでもいいという「自由依頼」だ。

「あ、ありがとうございます!!」

 この時はまだ、たかが盗賊団程度にしか思っていなかったのだが、一週間後に上がってきた資料に驚愕する事になるのだった。

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