仕事時々ファンタジー 長編版 2

NEO

第1話 始まりはパンツァーリート

 夜闇の中を、微かなジェット音が聞こえてきた。午前一時三十分。定刻通りだ。

 ここから三キロほど先に、古びた城がある。 昔は何だったかの貴族が使っていたらしいが、今の「家主」はトロールやオーガといった醜悪な「巨人」や「鬼」である。

 この界隈はすっかり魔物の国のようになってしまい、それを蹴散らすのが俺たちが受けた依頼だ。ランクはA。程々だ。さて……

「来たか……」

 何を狙っているのか、姐さんが対物ライフルのバレットを城に向けている。

「ああ。総員、対ショック・対閃光防御!! なんてな」

 瞬間、城が文字通り吹っ飛んだ。約1000キロ離れた海上から放たれた、巡航ミサイル「トマホーク」十発の直撃を受けて。噂にゃ聞いていたが、凄げぇ精度だな。

 ちなみに、今回手を貸してもらったパーティーは、色々ある系統の中でも「ロマン派」と呼ばれる、ちょい懐かしいものを愛でる連中だ。

 このトマホークはあの戦艦「大和」から発射されたもの。後部の三番砲塔を撤去してVLSというミサイルの垂直発射機を埋め込み、イージスシステムという「最新の防空システム」まで搭載した「大和」のどこがロマンなのか分からんが……。

『第二次攻撃、いっきまーす!!』

 無線から俺のカミさんこと、鈴木の元気な声が聞こえてきた。シュゴーっとアフターバーナー全開でトーネードIDSが爆弾を撒き散らしながら、城の周りにいた魔物どもを蹴散らしていく、なかなか爽快ではあるがいよいよ出番か……。

「本間、ボルドア、アイリーン、姐さんにランボー、仕上げだ、準備してくれ!!」

 俺は無線に声を叩き付けた。

 そう、あれから一年。俺たちのパーティーと装備は、さらなる変化を遂げていた。

 まずは航空隊。鈴木・佐藤ペアが乗るトーネードIDSに予備機として修理が上がったF-15Eストライクイーグル。基本的にはこの使い分けをやっている。他は使わないので売却した。そして、本間のハリアーⅡ+、こちらは俺たち陸上チームの直援に当たる事が多い。今もぴったり頭上に張り付いている。

 そして、地上チームだが、航空チームが元に戻り三井が抜けたため……頑なにCV33から降りようとしないタマに付き合う形で俺はそっち、そして、残り四名は‥‥ついに禁断の主力戦車に手を出しましたとさ。残り四人で一両。車種は「レオパルト2A7+」文句なしの最新鋭だ。生粋の歩兵隊がいなくなってしまったが、場合によっては下車戦闘もやるので問題ない。受ける依頼がかなりハードになってきたので、このくらいの装甲車両じゃないと、とても耐えられなくなったのだ。

『こちら二号車。搭乗完了』

 バルボアの声がインカムから聞こえた。ちなみに、車長はバルボア、砲手は姐さん、通信手はアイリーン、操縦手はランボーである。

「了解、前進」

 タマの操縦により軽戦車がガタガタと進み始めた。向こうからしてみたら、散歩しているような速度だろうが、レオパルト2もついてくる。なんかこう「パンツァーリート」でも流したくなるな。イタリア・ドイツ連合だから微妙だが。

「四時方向、オークの大軍。叩け!!」

 ハッチから上半身を出して辺りを監視する俺の指示で、レオパルト2の砲塔が油圧モーターの音も小気味よく回り、ど派手な爆音が炸裂した。

 使用弾種は……まあ、簡単に言ってしまえば榴弾。爆発して破片を撒き散らす対非装甲目標用だ。

「次、二時!!」

 ドン!!

 こんな調子で、まさに電撃のごとく突き進み、誰が言ったか「パンデモニウム」は呆気なく陥落したのだった。


 異界からの冒険者には、ステータスの一部にランク分けがある。俺のランクはSSSだ。姐さんも荒木も同じ。バルボアやアイリーンはSSS+だ。航空チームは知らない。パーティーランクもあり、こちらはS+となっている。このせいなのだ。戦車を買うハメになったのは。ランクによって受けられる依頼の下限が決まるのだが、Aランくらいまではなんとかなっていた。しかし、Sランでもう難しくなり、+になったら戦車でなければとてもクリア出来なかったのである。

「なぁ、タマ。本当にこのCV好きなんだな……」

 今日は依頼もなく総員で機体や車両の整備日。一応手伝いながら、俺はタマに声をかけた。

「はい、時代遅れなのも弱いのも分かっているのですが、可愛くて仕方ないんですよ。今の戦車にはない味がありますし」

 味ねぇ……。

「スルメみたいなもんか……」

「そんなところです。猫はイカやタコは食べられないですけれどね」

 油塗れの顔をニコッとさせるタマを見ると、俺はもう何も言えない。やれやれ。

「はい、エンジン回りの整備はこんな所でしょう。かけてみますね」

 俺は寝台をガラガラと押し、車体の下から出た。

「じゃあ、いきますよ!!」

 タマが儀式めいた手順でエンジンをかける準備を進めていく。この年式は、エンジンをかけるだけでも大変なのだ。なにせ1933年式だ。

 程なくエンジンが始動した。パンパンと時々バックファイヤを起こしてはいるが、このくらいなら許容範囲だ。

「あっ、そっちも終わりましたか?」

 四人とも油塗れのレオパルト2チームを代表して、アイリーンが小さく笑った。

「ああ、ちと慣らし運転してくるか?」

「はい!!」

 元々六十トン弱だったレオパルト2も、改良されるごとに重量が増え続け、今や七十トン近いモンスターに変貌を遂げた。それでも、70キロは出る。対してCVは軽いのに20キロが関の山だ。合わせるのは大変だろうが、まあ、頑張ってもらうしかない。

「じゃあ、行くぞ」

 そう言い残して、俺はCVに乗った。

 街の周囲をぐるっと回るコースがある。レオパルト2を従えて街道をしばらく進み、草原へと逸れてしばらくは不整地だ俺もバルボアもハッチを開けて、周辺警戒をしながらの進行である。そのままガタガタ進んでしばらく進んだ頃だろうか。見覚えのあるティガーが止まっているのが見えた。

「おう、どうした?」

 ハッチから上半身を出していた、リーダーの「漢」に聞いた。なぜ褌なのか、その謎はいまだに解けていない。

「ああ、いつぞやの……なに、うちのメンバーが湿地にはまってしまってな。

 よく見ると。周回コース脇の湿地に、パンターが三両はまって身動きが取れなくなっていた。

「助けたいのだが、コイツの重量ではミイラ取りがミイラになりかねん。なにかいい方法はないものだろうか?」

 リーダーに問われ、しばし考えたのち俺はタマに聞いた。

「やれるか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 これで通じ合う。ダテに長くコンビを組んでいるわけではない。

「まさかと思うが、その小型車で……?」

 リーダーが問うてきたが、まさにそのまさかだ。こういうスタックは車両が少しでも動かせれば脱出出来る事が多い。ここでは、軽さが有利になる。こっちがハマらずに済むからな。

 タマは慎重にCVを湿地帯に入れ、まずは一番奥から。靴に泥水が入るのもお構いなしにワイヤをパンターに引っかけていると、乗員総出の大作業となった。

「踏み込みすぎず、軽くペダルに足を乗せる感覚で!!」

 相手の操縦手に指示を出しながら、こちらは一気に全開加速。ガツンという強烈な振動が走り、泥をかき分けながら1台のパンターが這い出てきた。よしよし。

 この要領で全て拾い上げた時、辺りは拍手に包まれた。

「なんと礼を言っていいか分からんな。助かった」

 リーダーが声をかけてきた。

「なに、大した事はしてない。気を付けろよ」

 それだけ言い残すと、俺たちは再び試運転を再開した。

『いい仕事したじゃないの』

 アイリーンが笑いながら無線で言った。

「貸しを作っておいて損はないだろ。それだけだ」

 実際、あのティーガーの八十八ミリは素敵である。仲間に欲しいくらいだ。

『はいはい。そうだ、砲塔の旋回用モーター弄ったから、ちょっと回す。頭引っ込めていて』

 言われなくてもそうする。俺は車内に体を引っ込めた。すぐ上をブインブイン砲身が通り過ぎて行くのが分かる。怖いぞ。

「回転砲塔、いいですねぇ」

「まあ、便利っちゃ便利だな」

 俺は無線のトークスイッチを押した。

「六時!!」

 イタズラに回っていたレオパルト2の砲塔がピタリと止まる。

「九時!!」

 小気味よい音とと共に、再び停止。

『テスト結果良好』

 アイリーンから短く言葉が返ってきた。

「よし。じゃあ、あとは普通に散歩を楽しむか」

『はい』

 こうして、つかの間の休日は過ぎ去っていったのだった。

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