6.Lunatic ! 個性的な生徒会 !

 「記憶喪失?」


 確かに旭の記憶喪失は、ひと目見てまず疑ったことだが・・・。

 やはり、アリスが意図的に記憶を封じたのか?


「安心してくださる? 私は記憶操作や感情操作といった干渉はできませんから。危害は一切加えていませんわ」


 と、いいながら俺の目を、まるで心の中を見透かすかのように凝視しているアリス。


「ただ、感情を読むことはできるのではないか?」

「感情を読むこともできませんわ。ああ、今のですわね。ユウ、あなたの顔に出ていましたわよ。でももし言うならば、そうですわね・・・。魔法で読むことはできませんが、あなたの表情は素直で非常に読みやすいわ」


 表情・・・。そんなに分かりやすいのか?

 以後、気をつけることにしよう。

 そういえば、校内では日向が待っている。ぶっとんだモノを見せられて忘れていた。


「もう、帰ってもいいか?」

「それはどうしてですの?」 「もう、帰ってしまうのですか?」


 アリスと同時に、旭の方は名残惜しそうに言う。もし、記憶喪失のフリをしているのであれば、ここでアリスのもとから彼女を助け出すべきだ。


「はい。人を待たせているので。旭さんも来ますか?」

「ユウ、なんで私を無視するのですの? その上、旭には丁寧な口調で。私の方が先輩ですのに。しかも生徒会長ですのよ?」


 ・・・今、なんて言った?・・・

 聞こえなかった。それでいい。きっと何かの聞き間違いだろう。


「それでは、失礼します」


 俺はそのままドアに向かおうとしたのだが、その時、アリスに左腕を強く引っ張られた。

 アリス。お前の表情も読みやすいな。アリスは上目遣いで目をウルウルさせてこちらの腕を引っ張って来るので、無理に引き剥がすことも出来ない。


「おい、アリス。俺は日向のところに行かな・・・」

「先輩・・・が足りないですわ・・・よ」

「アリス・・・先輩。俺帰らないといけないので・・・」

「どうして、私を選んでくれないの? 私のなに不満なのですの?」


 この人は・・・。まるで俺が浮気でもしているみたいではないか。廊下に聞こえていたらどうするんだ。


「分かっ・・・・・・」

「理解しましたわ! ユウを待っているのは誰?」


 またもや俺の言葉は遮られる。なにも分かっちゃいなさそうだが、こいつのペースに巻き込まれてしまった今は逃げられないだろう。


「日向だ。それがどうかしたか?」

「分かりましたわ」

 ユウ 旭『???』


 アリス先輩が何を考えているのか僕には理解出来なかった。隣を見てみると旭の頭にも 「?」 が浮かんでいる。

 アリス先輩だけではなく、旭の考えも理解できるなんて、もしかしたら俺にも人の感情を表情から見定める能力があるのかもしれないな。


 などと考えているといつの間にかアリス先輩は僕達に背を向けて何かをしていた。

 直後、こ気味の良いリズムが流れる。俺を生徒指導室に呼び出したときと同じリズムだ。


[生徒会からの連絡ですわ。1年の日向さん。1年の日向さん、至急生徒会室にお越しくださいませ]


 これが、”ホウソウ”の風景なのだろうか?

 今日の昼には、放送委員会という所からの”お昼の放送”というものを聞いて、とても驚いたものだ。目の前で放送している風景を見たら感動するだろうとさえ思った。

 だけど、放送とはこんなものだな。あっけない。というか、何をしているか分からない。


 放送から少しすると息を切らした日向が呼び出しに応じ、生徒会室のドアを開ける。


「待ってましたわ。日向さん。会計でいいかしら?」

「ふええ?可愛いからって、生徒会に!? お気持ちは嬉しいのですが・・・」

「日向さん、会計でいいですのね!」


 アリス先輩は、日向のナルシスト全開ぶりに苛立ったようで、「?」が「!」になる程に語尾を強くする。

 あらためて理解した。アリス会長のペースからは決して逃れられない。


「 ひゃ、ひゃいっ!会計・・・でいいです。数学が得意なので」

「旭。今日は静かですわね。どうしたののですの?」

「ええ、考え事をしてました。ユウ君を見た途端、なにか懐かしい気がして。思い出せそうで」

「そうでしたの。でしたらもっとユウをご覧なさいな」


 先程からちらちらこちらを見てきた旭だったが、アリス先輩の言葉が引き金となり、堂々と凝視してくる。ここまでされると恥ずかしいのだが・・・。


「日向さんは会計ですわね。把握しましたわ。ちなみに副会長はユウよ」

「えええ!?」


 って、あれ?俺以外驚いてない。予想外に驚かれないな・・・。まるで驚いた俺が恥ずかしい奴みたいじゃないか。


 ドンッ


 隣の部屋が壁を殴ったようだ。うるさかったのかもしれない。


「ゲジ眉ですわね。この私の生徒会室へ向けて壁を叩くなんて。文句を言ってきますわ」


 って、これ、俺が悪いんだよね!?


「まって、まって。アリス先輩。今のは叫んだ俺が悪いから」

「それでも・・・」

「お待ち下さい、アリスさん」「アリス会長まってください」


 俺だけではなく旭と日向にも止めれられ不満そうだが、アリス先輩は抑えてくれた。


「本題に戻りましょう。アリスさん」


 旭が脱線した話を戻すべく、アリス先輩に進言する。相変わらずこちらを見つめたままで。


「そうですわね。改めまして、私が生徒会長の月宮アリスですわ。そっちが旭ヶ丘 旭。女子副会長。そしてユウ。あなたは本日から男子副会長ですわ。日向さん、あなたは会計ね。書記はまだ来てないようね。また改めて紹介するわ」


 それからしばらく生徒会の説明をされた。

 どうやら生徒会は発足していたものの、俺と日向の2枠だけ、いなかったそうだ。今年度は3人でまわしていたというのだから驚きだ。

 ちなみに、

 男子副会長は問題を起こしたため、生徒の顔である生徒会から外されたそうだ。

 会計は病気による休学。


 なんだか、出来すぎているように感じるが、追って詳細は分かってくるだろう。


「明日は、親睦会をしたいですわね。各自所定の時間までに集まるように」


 そうして今日の生徒会はお開きになった。

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