2.Stay!バタバタ異世界生活!
俺たちはファミレスを出て、日向の家に着いた。道中では日向にこの世界について説明してもらい最低限の知識を身に付けられたと思う。というのも、世界の全貌がまだわからないからあやふやなのだ。
家に着いたようで彼女に続いて入室する。日向の家は玄関と台所がつながっていてその奥には8畳ほどの床が板張りの部屋が見えた。ざっと見る限り、罠はなさそうだ。
「もしかして一人暮らしか?」
「ええ、そうよ」
「それは結婚できなかったからか?」
「だからユウの世界と違う言うてるだろ!」
難しい。やはりまだこの世界はよく分からない・・・・・・
「ユウ、とりあえずお風呂に入ってきなさい。って言っても分からないわね・・・説明するからついてきなさい」
勝手に自己完結されているが風呂ぐらい俺の世界でもあった。主には人が立てるほどの魔法陣の中にできた自分の身長より高い縦長のお湯の空間に入ると水圧で綺麗にしてくれるのだ。しかし、この風呂は自分の体ごと水圧の強いお湯の中に入らないといけないので入浴している間は息ができない。だから風呂が嫌いな人が多かった。しかしこれは魔法の世界の話。科学の世界の風呂とはおそらく違うだろう。もしかしたら水浴び、あるいは科学的に汚れを分解する機械があるのかもしれないな。
「ここよ」と彼女が開けたその部屋には四角い箱があり、壁には何かの機械がつけられている。そしてその横には細い管につながれた先に穴がたくさん開いている不思議な物もある。
「えへへ。凄いでしょ。お風呂だけは広いのよね。ここ。トイレと別だし」
日向は唐突に自慢を始めるが何を言っているのか分からないのでスルーする。
「で、どうやって使うんだ?」
そして俺は説明された通りに風呂に入った。この風呂は息苦しくなくて体があたたまる。明日は仕事を探さないとな。
風呂からあがり着替えがないことに気が付いた。今の魔法メモリ容量で使えるか不安だが保管魔法『ポケット』を使ってみる。見事成功したようでお腹にポケットが現れる。ちなみにこのポケット異空間から物を引っ張ってこれる優れものだ。そこから手探りで服を探す。うーん・・・なぜかポケットの中は鬼のマークが書いてある通称鬼印と呼ばれている健康食品だらけだ。そういえば実技演習で鬼印から違反があったとして没収したものだったな。そしてやっと見つけた服を手に取り着る。
それはそうとこのポケットの中にはかろうじて入っている服と日用品、鬼印の健康食品。特にこの健康食品はどうやって処分しようか。非常に邪魔だ。日向にあげてもまだ余るしな。
まあいい。それは明日考えることにしよう。
***翌朝***
朝起きて日向には鬼印の健康食品をあげた。3つあげたところでもういらないと受け取りを拒否されたのでどうしようか悩んでいると素晴らしい商売方法を思いついた。日向は学校というところに行ってしまったようなので今日の活動は基本一人だ。
閃いた考えをもとに家を出てお金を持っていそうな人に話しかけていたのだが、なぜかどの人も顔を真っ青にして断る。なぜだろう?次こそは成功させたい。じゃないとそろそろメンタルが・・・・・・今度は逆にお金がなさそうな人に聞いてみることにした。
「すみません。健康食品を売る商売に興味ありませんか?」
金髪の人は今度は止まって話を聞いてくれた。ここは特典もつけるべきだろうか?
「実はですね。この健康食品を買っていただいてほかの方にも紹介していただくことで今回のお試し分を無料でプレゼントします」
「ほう。どんな効能があるんだい?」
「あらゆる病気が治ります。また体のこりもなくなります」
「そんな夢のような薬があるのか!?」
「はい。試しにお一つどうぞ。一つ提案があるのですが。商売をしませんか?」
まるで嘘を言っているように聞こえるかもしれないが、この健康食品はよく効くという評判だった。しかし、この世界の人ときたらまるで信じない。あらゆる病気が治ると説明すると逃げるのだ。つまり人を信用していない。その点今やっと正常な人間に出会えた。不真面目そうな格好はしているが人間は見た目じゃないな。
そしてその金髪に30パックを3万円で買ってもらう。それを金髪の彼が周囲の人間に少し高い値段で買ってもらう。そうすることで彼もお金を稼げるし、俺も健康食品の在庫がなくなり商売もできる。なんて素晴らしい商売なんだろう。
その調子で他の人にも声をかけるがやはり、反応してもらえない。1時間ほどそれが続きもう諦めようかと思ったころ、さっきの金髪が怖そうな人をたくさん連れてやってきた。
「なあ、俺たちにもその商売手伝わしてくんない?」
煙草を吸いながらニット帽を目深にかぶった人物が近づいてきたときは俺を殺しに来たのかと思ったが、驚くことに彼は俺の商売を手伝ってくれると言ったのだ。つまり商売に興味があるのだ。そこで彼らに健康食品を売った。人が人を呼んだのか怖そうな人たちが続々と集まってきて結論から言えば大量に売れた。日が暮れたころ、俺は大量の札を抱えて家に帰った。
家に着くともう日向が帰っていて、怒られた。
「外に出るときは必ず鍵をしなさいって言ったわよね?」
そこで俺は彼女の怒りを抑えるために札束を少し渡した。
「そのお金どうしたの!?」
「自分で稼いだ」
何か変なことを言ったのだろうか?また彼女は目を白黒とさせている。ここまでくるともはや彼女の特技か?
「これが異世界から来たものの実力だ」
「そんなのおかしいでしょう。どうやって稼いだの?」
「聞きたい?」
含みをもたせるたかったので笑顔で聞いてみたのだが、「彼女はヒイイイイ分かったもう聞かないから」と話を変えてしまった。
今の言い方もしかして怖かったのか?
「ね、ねえ。このお金いくらあるの?」
「数えてない」
「じゃあ、数えていい?」
俺は首を縦に振りうなずいた。このお金の価値がいまいちわからないのだ。
「・・・・・・210万・・・・・・」
「それはすごいのか?」
「もちろんよ。ていうかあり得ないわよ。一応聞くけどこれ詐欺とか脅しではないわよね?」
「そんな低レベルなことはしていないはずだ」
「ならひとまず安心・・・ということにしておきましょうか」
昨日も大量に売れたがまだまだ在庫は残っている。昨日と同じ場所に向かう。そこには人だかりができていてその中心には昨日の俺のニット帽がいた。
近くで同業をするのは嫌だったが、気にせず昨日のように営業をしているとニット帽のとりまきがこっちへ来た。
「自分らにも買わせてください」
もしかしてさっきのは説明会を開いていたのだろうか?都合がいいのでありがたい。朝から売れ続けたせいか夕方には昨日以上のお金が手元にあった。
そんなことを5日間続けついにすべてを売りつくした。
***テレポートから2週間程たち、もう文明の科学道具にも慣れ暮らし方も分かってきた頃、こんなニュースが流れた。***
『さて、金曜日のニュースです。健康食品の違法な取引、マルチ商法が都会を中心に一部地方で流行っています』
『これがその商品なのですが・・・まるで鬼のような絵が書いてあります。』
ちょうど食事中だったのだが
ブフォッ・・・といきなり日向が噴き出す。
「大丈夫か?」
「そんなことよりも、ねえ、ユウ。テレビでにうつってるあれ、私にくれた健康食品と似てるわよね?」
「ああ、きっと似たものがあるんだな」
「なわけあるかー!あんなパッケージどこにも売ってないわ」
確かにあれは俺の売った商品だろう。どうしたものか・・・・・・
「自首してくる」
そう言って立ち上がり玄関へ向かう。どうやらマルチ商法と呼ばれている犯罪だったようだ。まさか全国ニュースになるほど拡大するとは・・・・・・
「ちょっと待てぇーい!」
今日の夕方に見た老人と若い2人が人助けをしながら旅をするという江戸時代を舞台にした時代劇の悪役のような声を出し服をつかんでくる。
「知らなかったのよね?ならセーフよ!きっとうん」
「そういうもんか?」
「ええ、だから今後はひっそりと暮らしましょう。そうだ、一緒に学校に通ってもいいじゃない」
なんだか無理やり言いくるめられたような気もするが、逮捕されては当初の目標も達成できないしな。
それにだ。科学世界の学校に興味がある。元居た世界では魔法を学んでいたのだから、この世界では科学を学ぶ場所だろうか。科学技術でできたテレビやスマートフォン、そして風呂、あらゆるものが魔法よりも便利で使いやすい。ただ、魔法のような手軽さがないのは難点だが。しかし、そんな科学を学べるとはいい機会かもしれない。科学で帰る方法が見つかるかもしれないしな。
「そうだな。月曜日から転入できるようにかけあってみる」
「え、」
日向はかなり驚いているが、俺にできないことはない!
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