転生者いりません
ミツキタキナ
第1話 朝
朝を待つ木々の海は、闇の底に静かに沈んでいる。
木々の頂をなぞる風は、そわそわとどこか落ち着きのない気配を含んでいる。
じきに朝が来る。
ケノイは、少し高度を上げると、4枚ある翼のうち2枚をすぼめて素早く遮光ゴーグルをはめた。
視界がほとんど暗闇に包まれる。
わずかばかり、消えたり現れたりして見えるのは、木々の合間を歩く人の持つランタンか、それとも、ひっそりとまばらに建つ建物から漏れる灯りか。
どちらにせよそれは、人が営んでいることを示す暖かなものだ。
吸い寄せられるように下りてしまいたくなる気持ちを抑え、彼は一度、強く翼を振り下ろす。
少し体を浮かせたところで、丁度いい風を捕まる。
翼の下に抱え込んだ風を逃がさないよう、微妙に姿勢を変えながら、太陽が昇ってくる方角から目を逸らす。
もうすぐだ、3、2、1…。
ゼロ、と彼が心の中でカウントした瞬間に、朝日が昇った。
圧力すら感じさせるほどの強い光があたりを包み込む。
遮光ゴーグル越しですらまぶしさを感じさせるその光は、ランタンや建物の灯りを白くかき消した。
朝だ。
この世界の太陽は、朝が一番明るく、夕方になるにつれ段々と光を失い、夜になる。
何もかもをかき消すような強烈な朝日は、残酷さの象徴でもあった。
夜明けとともに目覚めた鳥の群れが、木々の頂から飛び出してきた。
暗闇から光に満ちた朝へ。
襲撃者や状況の変化に敏感な野生動物と言えど、この急激な変化に、少しの間目がくらむ。
ふらついて無防備な姿をさらした一羽に狙いを定め、ケノイは急降下した。
翼を翻し、振り出した足で鳥の体を文字通り鷲掴みにする。
青緑の羽を持つ鳥は、甲高く短い悲鳴とともに彼のかぎ爪の間に収まった。
これで任務完了だ。
彼は意気揚々と街に向かい羽ばたいた。
転生者いりません ミツキタキナ @atorogicbg
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