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「もしお時間あるようでしたら何か飲まれますか?」
「え?」
「ここまでわざわざ足を運んでくださったのですから、もしお時間があるようでしたら一杯だけでも」
彼女は人気歌手だ。ここへは長居するつもりで来ていないとしても、一杯くらいは。
「よろしいんですか?」
「もちろんですとも」
彼女を席まで案内する。俺はカウンターへ移動した。
「あの、でしたら、お酒じゃないのですけれど」
「はい」
「コーヒーを一杯」
「コーヒーですか?」
そう訊くと彼女は小さく笑って頷いた。
「とってもいい香りでしたので」
「あぁ」
さっきコーヒーを入れたばかりで店内にはその香りが漂っている。バーテンとしてコーヒーを入れるのだってそれなりに上達しているはずだ。
「かしこまりました」
その後彼女から頂いたフィナンシェを一緒に食べて、ちゃっかりサインをもらった。斉藤君、きっと泣いて喜ぶだろうなぁ。
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