8-4

 納屋の外に出ると日が暮れていた。夕日が落ちるのは早い。

 季節はいつだろう。夏ではない。冬の初めか。それとも終わりか。真冬とは思えない。

 惑星の書下巻は回収した。だがこれからどうやって自分たちの時代に戻ればいいのだろうか。

 この村のどこかに小さいアントーニオもいるのだろう。

 考えても仕方のないことばかりが浮かぶ。

 エリオットには答えない。

「おい、エリオット」

 アンナが少女デイジーを腕に抱えて出てきた。頭には髪飾りがついている。

「どうした? そう見ると親子みたいだな」

「姉妹と言え」

「悪い。で?」

「毒だよ。アントーニオの奴、ナイフに毒を仕込んでた」

 アンナの腕に包まれた少女デイジーは目を閉じ、浅い呼吸を繰り返している。顔は青白い。

「姉も弟も毒々野郎じゃねぇーか」とエリオット。「これであんたも俺もニーナもデイジーもみんな順に毒にやられたな」

「解毒剤を探すぞ」

「こんな寂れた村にそんなものあるか」

「じゃこの子の腕を切るのか」

「そんなことは絶対にさせない」

 エリオットとアンナは走り出した。


   ■


 扉を一軒ずつノックした。不審者だと思われても仕方ない。

「旅の者です。小さな女の子が毒に犯されてしまっているようです。解毒剤などお持ちじゃないでしょうか。もしくはお持ちの方を知りませんか?」

 一軒目。

 出てきたのは農民らしい男だった。アンナの腕に包まれているデイジーを見ると、すぐに「バルナーバさんとこのデイジーじゃないか。こりゃ大変だ」と慌てていた。

 小さな村だ。子供の顔も全員がわかっているのだろう。

「あんたら少し待っててくれ。今、他の家に聞いてくる」

 口ひげを蓄えた男は他の家へ走り出した。

「村人全員が変態ってわけじゃないんだな」とエリオット。

「そんな村があるわけないだろ」

 性格の良さそうな人たちだった。

 すぐに口ひげの嫁が水瓶を持って出てきた。白髪が混じった長髪で人の良さそうな目をしている女だった

「これをデイジーに飲ませて。熱もあるみたいだから、この布を水に浸して頭に貼り付けといて」と口ひげの嫁は言った。「昨日だったら卵酒もあったんだけどねぇ」

「どうも」とエリオット。

「あなたたちは見ない顔ですけど、どうしてデイジーを」と口ひげの嫁が聞く。

「旅の途中でした。そこに道端で倒れているこの子がいたんです。自分も毒にはやられたことがあったんで、すぐにピンと来ました」

「デイジーは普段はとても大人しい子でね。こんなことするような子じゃなかったんだけど」

 口ひげの嫁は呟く。

「解毒剤はありそうですか?」とアンナ。

 ずっとデイジーを抱えたままだ。

「うちの人が探しに行ったけど、たぶん村には――」と口ひげの嫁。

 それからすぐに数人の男たちが戻ってくる。

「村長連れて来た」と口ひげ。息を切らしている。

「バルナーバさんは?」

 口ひげの嫁が聞く。デイジーの両親ことだ。

「いなかった。家にはアントーニオだけだ。お前、アントーニオが一人だと心配だから、バルナーバさんたちが戻ってくるまで見といてくれ」

 二人とも死んでいる。まだ死体は見つかってないらしい。

「そうね。わかった」

 口ひげの嫁が離れようとする。「ここに連れてこなくていいの?」

「アントーニオはまだ小さい。家にいるのがいい」と男。

 口ひげの嫁がアントーニオの家に向かった。

「解毒剤は?」とエリオットが尋ねる。

「ちょっと毒ならどうにかなるかもしれんが、こりゃいかん。これは近くの町まで行かんと解毒剤はないぞ」

 デイジーの顔見て、老人が行った。この村の長らしい。

「馬を貸してくれ。私たちが行く」

 アンナが言った。

「ただこの辺りは夜になると盗賊団がいる。あんたら大丈夫か?」と村長。

「腕には覚えがある」とエリオット。「そこは保証しますよ」

「盗賊ならついさっき一つ壊滅させた」

 アンナが続く。

「なぁに法螺吹いてんだ」と村長。「二人で盗賊団壊滅なんて無理だろ」

「いいから町の場所を教えてくれ」

 アンナが言った。

「こんなこと本当に頼んでいいのか?」と口ひげが言った。

「人助けが趣味なんです」

 エリオットが言った。「いい趣味だと思いません?」

「黙っていたが私たちはラナ教長老派の者だ」

 アンナが胸からルーベンの紹介状を出した。

「俺たちは正方会だからわかんねぇけど、教会の人なら信頼できそうだ。村長どうします?」

「バルナーバ夫婦の姿も見えないし、この二人に任せる他ない」

 村長が言った。「わしらじゃ盗賊には敵わない――」

「英断だ」とアンナ。「賢い選択だぞ」

 相変わらずの上から目線。

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