5-10

 目を開き、身体を起こした。

 衝撃を受けて、地面に叩きつけられたので身体中に痛みが走る。砂埃が口にまで入っていた。咳き込み吐き出した。

「アンナ――」

 横にアンナが突っ伏していた。肩を揺らす。だが反応しない。「どうした?」

「痺れて動けない」

「どういうことだよ」

「たぶん薪割りの酒だと思う。あれに毒でも入ってんだろう」

「落ち着いて話すことかね」

「早口で喋っても状況はかわらないぞ」

 祭壇を見た。半壊している。蝋燭の火は消え、月明かりのみ。

 暗い。その中にアントーニオの姿があった。

 両手で何かを持っている。

 人の頭か――。はっきりとではない。だが横顔が見えた。

 頭部と髪の先から垣間見える千切れた首。背骨が垂れ下がっている。

 口が動いた。アントーニオと喋っている。頭だけの奴、生きてるのか――。

「あいつ生きてるっぽいぞ」

 立ち上がりエリオットはアンナに言った。

「見えない。夜空しか見えない」

「そっか。けどなんか気持ち悪いし見なくてもいいぞ」

「いいから、惑星の書を奪ってこい」

「そうだよな。おい、アントーニオ」

 エリオットは吼えた。

「惑星の書を返せ」

 アントーニオがエリオットを見た。

 両手で持っている頭もこっちを見る。

 確かに、それは人の頭だ。女の顔だった。

 胴体から引っこ抜かれたように、首から背骨が伸びている。その背骨だって途中で切れていた。尻尾みたいだ。血は滴り落ちていない。

 アントーニオもその顔もエリオットを見ても何も言わなかった。

「俺は言ったぞ、何とか言えよ」

 後ろに気配を感じた。

 何が自分の背中に迫っているのか、確認する気にはならなかった。

 終わった――。

 視界が揺れる。曖昧になる世界の輪郭。

 衝撃が遅れてやってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る