5-6
「さっき、崖の上にいた奴は、モロウ・リー盗賊団かな」とエリオット。
状況は変わっていない。瓦礫の中、アンナが上、エリオットが下。閉じ込められて身体を密着させていた。
「善良な市民とでも?」
アンナが言った。「日々を慎ましく生きる真面目な人間が、谷の上から岩と木材を落とし、さらに爆発させた? お前はそういう可能性の話をしているのか?」
「そんなはずないよな」
「息するなって言ったろ」
「このままあと二日三日過ぎれば、俺は死ぬ。あんたは不老不死だから死なないがな。一人で寂しく瓦礫の中で暮らせ」
「減らず口が。誰が上にいるから、瓦礫の重みで死なずに済んでると思う? このアンナ・アリアス・ノラノ様が、お前の上で踏ん張っているから、瓦礫の重みがお前に圧し掛かってないんだぞ」
「あー、知りませんでした。じゃお礼の代わりに死にます」
「さっさと死ね」
「死ぬか。絶対に死なないぞ、俺は」
「今、死ぬって言ったろ?」
「不老不死が死ぬとか言うなよ。死ぬことがどんなことかも知らないくせに」
「じゃお前、死んだことあるのか?」
「ない。けど少なくとも俺はいつか死ぬ。あんたみたいな化物とは違う」
「私を化物呼ばわりするな」
――エリオッ――ト――。
「おい、何か聞こえなかったか?」とアンナ。罵る言葉を止め、耳を澄ます。
――エリオットなの――?
「聖なる伊達男の名前を呼ぶ声がする」
エリオットが言った。「これがラナ様の声なのか」
瓦礫の上からだった。女性の声だ。
微かだが確かにエリオットの名前を呼んでいた。
「応えろ」とアンナ。
「ここでーす。ここにエリオットがいまーす」
エリオットは力の限り叫んだ。「俺はここにいまーす」
――そこなの?――エリオット――。
女の声は言った。
「なぜ、私の名前は呼ばない」とアンナ。
「日頃の行い。暴力とか略奪とか色々してるだろ。ラナ様にはお見通しなんだよ」
「私は悪魔か」
「近しいと思う」
「いいから、叫び続けろ」
「はい、隊長」
エリオットは再び叫んだ。「ここでーす。ここに聖なる伊達男エリオット・ラウファーと暴力と冒涜の象徴、アンナ・アリアス・ノラノがいまーす。助けてくださーい」
「私を別のものにしろ」
「じゃあんたも叫んで助けを呼べよ」
瓦礫が動いた。埃が立つ。
「なんだ?」とエリオット。
出来た隙間から光が差し込んできた。眩しい。目を細めた。
「いいぞ、助かる」とエリオット。「ここだ、出してくれー」
「待って、あと少しだから」
瓦礫の向こうから声の主が言った。
馬の鳴き声がした。どうやら瓦礫を馬に引かせているらしい。
光は次第に大きくなっていく。
「やっぱりエリオットだね」
瓦礫が完全に取り払われた。「こんなところに埋まるなんて馬鹿なの?」
逆光の中、顔が見え辛い。
アンナは立ち上がり、エリオットの上からどいた。
エリオットも瓦礫の中から立ち上がる。
「あぁ――。なんでここに」
エリオットは呟いた。
「それよりもここに埋まってた経緯を教えてよ」とニーナが言った。「普通じゃないよ、こんなの」
「ニーナ、どうして来ちゃったんだ」
「助けてあげたのに、そりゃないでしょ」
「そうだぞ。エリオット。しっかりニーナに説明してやれ」
アンナが言った。面倒なことはすぐこうだ。
瓦礫の下に、馬車があった。三頭立てだ。なるほど。これなら瓦礫もどかせる。
「それにしてもいい空だな」とアンナ。
晴天。青空だった。
「悪くないよな、こういうのも」
エリオットは言った。
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