第13話 彼女のいる学校風景

 休み時間になるとクラスメイト達が正樹に質問に来る。

 それもいつもの光景だが今日は質問の内容に、勉強とは違う事が加わっていた。


「なあ、隣の席の者として、相沢はミンティシアちゃんのことどう思う?」

「感想聞かせてくれよ」


 ミンティシアのことだった。どうと聞かれても正樹は困ってしまうのだが。

 彼女はいつも通りだ。いつも通りにクラスメイト達に囲まれて明るく話をしていた。

 今日が初日だから、クラスのみんなに囲まれているのはいつも通りではないか。少し考えを修正する。それでも明るく楽しそうに笑って話しているのはいつも通りだった。

 彼女はいつも楽しそうにしている。優とも楽しく喋って仲良くしている。

 困らされることもあるが、彼女はいつも自分の使命に一生懸命だ。その笑顔に惹かれてしまう。

 正樹は考えて答えた。


「ええと、可愛いと思うよ」


 当たり障りのない正直な答えだ。クラスの男子達からは不満の声が上がった。


「えー、それだけかよー」

「相沢って女の子に興味無さそうだもんなあ」

「いや、別にそんなことは」


 興味が無いと言われても困ってしまうのだが。正樹には初恋の人もいれば、今気になっている人もいる。

 困りながら隣を見ると、ミンティシアがこっちを見ているのと目が合ってしまった。

『可愛い』と言ってしまったのを聞かれただろうか。正樹はやばいと思ったのだが。

 ミンティシアはすぐに笑顔になった。


「このクラスのみんなも可愛いと思いますよ。言ってあげたらどうですか?」


 ミンティシアはあっけらかんと気のない答えをするだけだった。

 正樹は安堵の息を吐き、可愛いと言われた女の子達の機嫌はよくなった。


「ミンティシアちゃんは良い子ねえ」

「ミンちゃんって呼んでいい?」

「友達にはみっちゃんって呼ばれています」

「じゃあ、みっちゃんで」


 対して男子は


「このクラスの女子が可愛いって?」

「プププ、ご冗談を」


 何だか受け入れられない考えを持っているようだった。

 正樹にとってはどうでもいいことだが、ミンティシアが男子から嫌われないといいなと思ったのだった。




 学校のいつもの授業が始まった。授業の内容なんていつもとそう変わらない。

 要点や問題に出そうなところだけ気にすればいい話だ。

 正樹はずっと隣の少女を気にしていた。

 ミンティシアは意外と勉強が出来るようだった。


「むむむ、お、解けた」


 時折難しそうに唸りながらも問題が解けた時には嬉しそうにし、


「それじゃあ、ここを。みっちゃんさん」

「はい」


 先生の質問にははっきりと答え、


「コツコツコツ……」


 ノートもしっかりと取っていた。

 何だか意外な一面を見ているようだったが、ミンティシアは天使の使命にも真面目に取り組んでいる。

 元からこういう性格なのだろうと思った。


 正樹はそっと隣の席から様子を見ていたが。


「あ」


 ミンティシアが不意に小さく声を漏らした。見ると消しゴムが落ちていく。

 気づいた正樹は素早く床に落ちる前にそれをキャッチして、ミンティシアの手に渡した。

 触れた暖かい手に思わず緊張してしまう。


「ほらよ」

「ありがとうございます」


 ミンティシアが笑顔で礼を言う。女の子を手伝って礼を言われるなんてよくあることなのに。

 彼女が笑顔なのもいつものことなのに。

 よくあるいつものことが妙に恥ずかしくなって。


「勉強しなくちゃな」


 正樹は前を向いて黒板に集中することにした。 




 今日の体育はバスケットボールをやった。男子と女子で別々のコートに別れて試合する。

 正樹はいつものように最前線で活躍しながら、いつもと違って女子のコートの方を気にしていた。

 長い空色の髪をポニーテールにして纏め、体操服を着たミンティシアがボールをドリブルして走っていた。

 始めて会った時も思ったが、彼女はとても素早くて運動神経がいい。始めて出会った時に正樹を翻弄した運動能力が今、相手チームを困らせていた。

 真面目な彼女はとても綺麗に見えた。正樹が思わず足を止めてしまうほどに。

 ミンティシアが鮮やかにシュートを決める。まるで天使のような綺麗なフォームだ。天使だけど。

 試合をしているみんなからは感嘆と驚きの声が上がっていた。

 これはもう勝負は付いたなと正樹は思ったのだが、


「おい、相沢。ぼーっとするなよ」

「ああ、悪い」


 慌てて仲間からのパスを受け取った。

 こっちの勝負はまだ付いていない。仲間から声を掛けられる。


「みっちゃんのことを気にしているのかい?」

「いや、別に。……って、みっちゃん!?」

「ああ、友達からはそう呼ばれているって言ってたろ」

「確かにそうだけど……」


 自分はまだミンティシアって呼んでいるのに。

 そんなどうでもいいことにいらだちを感じてしまう。


「あの運動能力はお前も気になるんだろうが、今はこっちに集中しようぜ!」

「ああ!」


 真面目なスポーツ選手の男子の声に答え、正樹も自分の勝負に集中することにした。

 ドリブルで相手を抜き去り、ミンティシアほど鮮やかでは無いかもしれないが、力強くシュートを決めた。

 場が歓声で沸き立った。

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