第12話 学校に来た
正樹と優はいつものように学校に登校した。
家ではいろいろあったが、学校ではいつもの風景が広がっている。
生徒達が登校する授業の始まる前の朝の時間、談笑する生徒達で学校は賑わっている。
「じゃあ、お兄ちゃん。帰りにまたね」
「おう、またな」
昇降口を上がった所の廊下で優と別れ、正樹は二年生の自分の教室に向かった。
開いている前のドアから中に入った。
「おはよう、相沢君」
「おはよう」
クラスメイトといつも通りのごく普通の日常的な挨拶を交わし、自分の席に座った。
先生が来て、クラスのみんなが席に付いて、今日もいつもの学校生活が始まる。
そう正樹は思っていたのだが、今日は先生がいつもと違うことを言った。
「転校生を紹介するぞ」
「「「転校生だってーーー!」」」
とたんにクラスのみんなが俄かに慌ただしくなった。
転校生って誰だろう。転校生の正体を巡って周囲は雑談の渦に包まれた。
「未来人か宇宙人か超能力者か!」
「ドラゴンかブラキオサウルスかもしれないぞ!」
「いや、人気を取ってベイブレードかも!」
そんな馬鹿げたどうでもいい憶測まで飛び出していた。
普通の人間だろと正樹は思い、転校生が上手くクラスに馴染めるといいなとささやかに願うのだった。
先生の続けた言葉で男子がさらに騒がしくなった。
「男子は喜べ。女の子だぞ」
やったーと喝采を上げたり、ふざけて踊ったりする男子がいて、さらに賑やかになる教室。
正樹は転校生がドン引きしたりしないといいなと思っただけだった。
「入ってきなさい」
「はい」
先生に呼ばれて綺麗な声が返事をする。噂の転校生がついに入ってきた。
正樹もクラスのみんなも天使が来たのかと思った。そう思える綺麗な少女だった。て言うか天使が来ていた。
空色の髪をした明るく元気な少女は正面に立って挨拶した。
「初めまして。ミンティシア・シルヴェールです。外国から来ました。愛、探していきましょう!」
柄にもなく少し緊張しているようだった。指で作ったハートマークがちょっと震えているのを正樹は見逃してはいなかった。さすがの彼女でもこれほど多くの人間を前にしては緊張するのだろうか。
クラスのみんなが拍手で迎え、ミンティシアはそっと手を下ろした。恥ずかしそうにはにかんだ。
学校の制服を着た彼女を、正樹は新鮮な気分で見守った。
「ミンティシアちゃん、愛って何ですかー」
クラスの男子が冗談めかした質問をする。
正樹は少しイラッとしてしまった。自分の方が先に見つけた宝物に手を出されたような気分だった。
ミンティシアは気にせずに真面目に答えた。
「愛は愛です。地上の人類ならみんなが持っている感情です」
「それが見つかったら僕と結婚してくれますかー?」
「それは駄目です。だってあたしは天もごもごもご」
ミンティシアは慌てて口をもごもごさせた。天使というのは言ってはいけないのだろうか。正樹はそう思った。
「駄目だってよ」
「断られてやんのー」
クラスの男子の間では冗談めかした言葉が飛んでいた。
先生が改めて教壇から教室を見渡した。
「じゃあ、ミンティシアちゃんの席は……相沢君の隣が空いてますね」
「え」
正樹はびっくりして隣を見た。そう言えば隣の席は空いていた。正樹は思い……出したッ!
席替えをしたばかりの頃だった。正樹が今の席に付くと、隣の席が空いていたのだ。
誰が座るんだろうとその時は気にしたが、授業が進み、時間の経つうちに、今ではすっかり気にしなくなっていたのだ。
その席に今、知っている少女が羽のように軽く綺麗に座った。
家では見慣れた、しかし学校での制服姿になって違った感じに見える少女がいつもの笑顔を向けてくる。
「同じクラスになれましたね、正樹さん」
「ああ、そうだね」
正樹は何だか照れくさくなって鼻の頭を掻いてしまった。
ミンティシアは両手をぎゅっと握って正樹に向かって小さく宣言した。
いつもの自分の考えを提案する時の強気な顔で。
「これだけの人数がいれば大丈夫ですよ。正樹さんに合う人がきっと見つかります! 愛、見つけましょうね!」
「ああ」
自分はそれを見つけたいと思っているのだろうか。それは誰のためだろうか。考えてしまう正樹だった。
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