第2話 心を失くすということ。



「………うっ!…うっ!……ぐっ!…」




寒い。


痛い。

痛い。

痛い。


寒い。



乾いた部屋に響きわたる湿った音。


ぐちゅっ。ぐちゅっ。ぐちゅっ。


これはたぶん

血の飛び散る音。


だけど、このひとはやめてはくれない。



ぐちゅっ。ぐちゅっ。ぐちゅっ。



痛い。


早く終わって欲しい。

いつも思ってた。



それでも、このひとは私に言うのだ。


「なぁ。気持ちいいか。そうだろ? 気持ちいいよな? 俺のこんなでっかいのぶちこんでやってんだからな。へへへ。」


頭おかしいんじゃないの?

私、何歳だと思ってんの?

まだ、10歳なんだよ?


生理は来てないから、まだ妊娠はしない。

それくらいの知識は、かろうじて習った。


「ぐちゅぐちゅ言ってるぜ?そんなに気持ちいいのか? ほら。上に乗れよ? 好きなように動けよ。 自分の気持ちいいようにな。」


よく見てよ。

血だよ。

裂けちゃってるんだよ。

バカじゃないの?


「うん。わかった。わたしが動くね。…あん。気持ちいいよー。」


こう言わないと、あとで酷く殴られる。

もう馴れたものよ?

ちゃんと腰を使って、私の奥まで入れて、締めつけてやると喜ぶ。

あとでちゃんとごはんもくれるはず。


「上手いぞしずく。お父さん、もうイきそうだ…。中に出すからな!いいよな!出すぞ!うっ!」


そしていつも、大量の精子を私の中にぶちまけて、お父さんは寝息を立て始める。


お母さんが出ていったあの日から、ずっと続いている、私の仕事。


上手くやれれば褒めてくれるし、ごはんもくれる。

初めての時は泣いてしまって、痛くて逃げ回っていたから、2週間くらいごはんをくれなかった。


先生や役所に突っ込まれることがない程度には学校に行った。

誰にも言えないから、口をきかなかったらどんどんと置いて行かれた。

昔は居た友達も、みんな離れていった。


みんながこんな汚れた私を、ゴミを見るような目で見ていると思った。

いつもビクビクして、いつも怯えていた。

実際に、陰で“キモ子”って呼ばれていた。


今考えると

お母さんは、お父さんの偏執した愛情に、最初から嫌気が差していたんだと思う。


風俗業界ではけっこう名の知れたロリータ系ソープランド嬢だったお母さんは、足しげく通いつめてきた、いわゆる“ロリ”で“キモオタ”だったお父さんに猛烈に貢がれ、見た目には優しい心根に惹かれて、結婚をしたらしい。


子供の目で見ても、お母さんは本当に綺麗だった。

何度も有名なプロダクションからもスカウトされていたりもした。

しかし、お父さんの偏愛は徐々に頭角を現し、実の娘の私にまで目を向けてきた。

私はお母さんに本当によく似ていたから。


お母さんが寝ている横で、私はお父さんに処女を奪われた。


それが7歳になった年。


お母さんは、私を助けるでもなく、翌日荷物をまとめて出ていった。

私は要らなかったんだろう。


それからは本当に大変だった。


私は小学1年で、料理も洗濯もなにも出来ない。

お父さんは働かず、ずっとTVの前で幼子のエロアニメを視てオナニーをしているか、私を犯し続けた。


たまにするアルバイトで、なんとか食べれるくらいのお金を持って帰ってはいたけど、それも、私が上手くやらないとごはんにもありつけなかった。


中学も、ほとんど行かなかった。

お父さんを養うために、アルバイトを始めた。

でもやはり、学校や役所に突っ込まれない程度には顔を出した。

お父さんは、そのくらいの知恵は回るひとだったから。


高校は行っていない。

修学旅行というものは、話でしか聞いたことがない。

小学生の時も、風邪をひいたことにしていたから。


友達というものも、知らない。

正直、見たことがない。

先生も、当たり障りなく、問題の起こらない程度に、自分に火の粉が来ないよう遠巻きに見ていた。


それでも成長はするもの。

栄養も足りてないだろうに、どんどんとお母さんに似て、胸も大きく膨らみ、身体つきも女らしくなっていき、ついにTVで視るモデルのような体型になった頃。16歳だったかな。

アルバイト先の先輩に、声をかけられた。


そのひとは、優しいひとだった。


私が笑わないことを、酷く気にしてくれていた。

俺とつき合ってくれたら毎日笑わせてあげるとまで言ってくれた。


ある日、アルバイトが長引いて遅くなった時、彼が私を自宅まで送ってくれた。


家に入ると、お父さんがいつものように裸で待っていて、私が男のひとと帰って来たことに腹を立て、そのひとを半殺しにして縛りつけ、彼の目の前で、私が気絶するまで犯した。


私が目覚めると、彼はもう居なかった。

翌日、アルバイトに行くと、もう彼は辞めたあとだった。


私が求めるなら、奪われる。

私が望めば、誰をも傷つける。

もう、誰も見ないよう、誰にも心をやらないよう、ひっそりと目立たず生きて行こう。

そう決めた。


そんなお父さんは、半年前、突然死んでしまった。


TVの前で、自分のものを握りしめたまま、うつ伏せに倒れていたのを見つけた。

警察の話では、心筋梗塞らしい。


お父さんが散財した借金のおかげで、粗方のものは差押えられ、住む場所もなくなり、行くあてもなく、いわゆるホームレスになった。


でも、独りは本当に本当に幸せだった。


何よりも

日課であったお父さんの精子を飲むのと、中出しが無くなったことが、どれほど嬉しかったか。


公園で寝るのも、泥水を飲むのも、タンポポを食べるのも、私にはなんでもなかった。

幸せだ。


もう、涙も出ない。


心なんか、邪魔なだけ。

もう泣くのも悲しいのも要らない。


独りは嬉しい。私は幸せだ。


心なんか、要らない。












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