第7話 ご指名



 前にも言ったけれど、うち以外の会社でも社員のロボット化は進んでいて、それ自体がニュースになることは滅多になくなった。


 それでも今回の「ロボットが社長に」というニュースはそれなりにセンセーショナルな出来事として、数日間はテレビでもネットでも話題になっていた。


 それを否定的に見る人たちもいたが、多くは僕と同じで「仕方ない。場合によってはその方が良い」という考え方で、世の中はちょっとずつそういうふうになっているように思えた。


 僕の場合だけ見ても、それは明らかだった。同業他社に先駆けてロボット化を進めていったお陰で、業績は一気に改善していった。コストを削減して出来たお金は、惜しみなく新商品の開発や、販促へと効率よく注ぎ込まれた。


 競合他社がどれほど対策を練ってこようとも、AIロボットの経営陣はすぐに対抗策を出し、確実に成果を上げていった。


 朝に決定したことが夕方には変更になったりすることもあって、人間の僕としては結構目まぐるしい展開になったけど、それでもキチンと数字が出ているというのは嬉しいものだ。


 それに新しく上司になった課長ロボット「RH05」は、前の課長のように「なんとかしろー」と連呼するだけでなく、キチンと数字を分析して具体的なアドバイスもくれる。


 そしてそれはほぼその通りになっていったので、僕の個人的な成績も、以前と比べると雲泥の差になっていた。


 会社自体も数ヶ月で業界三位、半年もすると業界二位の売上を誇るほどに、業績は改善されていた。業界一位のトップメーカーは、あの手この手で対抗しているし、何と言ってもこれまでの圧倒的なブランド力が物を言うので、まだ手は届いていないが、これも時間の問題だろう。


 僕を含めた社内に残された数少ない人間は、ロボットたちの活躍により、多くの恩恵を受けている。それは待遇面でも給料面でもそうで、今では「こんなにもらっていいの?」と心配になるほど毎月振り込まれている。


 今でもたまに本社に「ハンコをもらいに」出かけることがあるが、あの時「なんとかしないと」と言っていた人たちは、まだ会社に残っている。そして、今はもう何も言っていない。むしろ、とても幸せそうだ。


 そうして、なんとか毎日を過ごしていた、ある秋晴れの日。


 僕は本社に呼び出された。


 社長からのご指名だった。

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