第4話 <9> 謎の究明
秋葉先輩といえば嫌な事は先に済ませたいタイプらしい。
「上級生から回そう、お手本にもなるでしょ」と委員長権限で宣言。
「バカホ、理屈かな、それ」と雅楽川先輩が言いながらもその順序で回す事になった。
「じゃ、私から行くね」と秋葉先輩。
「この路線の工事着手は戦前、昭和8年。廃線本でもチラリと出ていたけど線路は戦時中に一度撤去されてます。他にも実際に列車を走らせていた路線でも同種の事は行われていてそちらは『休止線』と呼んでました。もとより日中戦争時点で物資不足が表面化していた国だからね。他で必要な鉄道区間敷設のために線路を召し上げてしまう手も使っていたって訳。当時の時刻表見ると路線図などで一目瞭然だから機会があれば是非見て欲しい」
雅楽川先輩がこの後を受けて言った。
「地形、地質とも道路も難しい区間が多い。山向こうの南北縦貫道は青崩峠、地蔵峠と道を通すのに難渋していてきちんとした道路が曲がりなりにも通ったのは近年の事だったりする。松鹿線も例外ではなく結局途中の小渋ダムまでしか延伸出来なかった。たたこのおかげで小渋ダムの工事では松鹿線が随分使われたそうで大変役立ってるのは怪我の功名じゃないかな」
和賀山先輩は鉄道計画について掘り下げた。
「大鹿村まで通すという鉄道計画自体が本気だったのか疑わしく見える。少なくとも戦後はもうやる気なかったとしか思えない記録が多いね。あと新聞縮刷版とか見ていて分かったけど小渋ダムの構想は早くから考えていた人がいたらしい。そこに鉄道を通そうとしているんだから渡りに船。小渋までの活用は織り込み済みだったと思うよ」
餅多先輩は松川橋梁の写真分析と資料の突き合わせの結果について触れた。
「松川橋梁の写真はよく見てくれてると思いますが、廃線本でもあるように一度水害で一部橋梁・橋脚が流されている。この事で設計の違う橋梁・橋脚がある事は説明できると思う」
安形先輩は廃線後の遺構の少なさを調べていた。
「スイッチバックがあった
広乃ちゃんは大鹿村側の記録を探していた.案外先輩達もやってない目の付け所だった。
「山向こうの大鹿村の歴史について協同資料を調べてみたけど、この路線が全通していたら村の歴史は大きく変わったんじゃないかな。結局通らなかった事で平成の大合併での松川町との合併も流れて終わったみたいだし」
ユウスケは水道橋の経緯について掘ってきた。
「水道橋した経緯は松鹿線廃線記念本に載ってました。廃線前にアイデアが出ていて工業団地への送水管を通す計画で採用されてます。だから橋梁ごと残されていた訳です。うまく話を通せる人がいたみたいですね」
最後に私が発表した。
「松川橋梁は2回流されてます」
あっけにとられるみんな。
「鉄道橋時代に1度は発表の通りでしたけど、水道橋になってからもう1度流されてます。もともと昭和34年水害では第3と第4橋脚と第2、第3、第4橋梁が流されたとは鉄道廃線本でも書いています。
そして第4橋梁は1980年水害で流出してます。これは松川町政の本の抜粋です」
プロジェクターに年表部分を投影して見せた。
「1980年の水害について工業用水の断水が半年にわたって発生した事が触れられてます。第4橋梁の銘板の写真、一部しか見えてませんが『1981年』と書いてあるのは分かります。これからみて1980年水害復旧工事で架けられた橋梁と見て間違いないと思います」
餅多先輩が言った。
「写真撮っていた俺も気付かなかったな。鉄道廃線本にも出てないし」
「廃線本だと廃線後の話は興味ないんだろうね」とは音田先生。
「ミアキちゃん、よく本にも出てない情報を見つけてきたね。今日の殊勲賞かな。インターネットの情報は編集や校閲の手が入ってないものも多い。
また興味を持っている人がいないとコンテンツが作られない。ましてや10年以上前のWebサイトやブログ全盛だった時期と違って写真やメッセ主体の今のネットじゃ詳しい情報は案外手に入りにくいしね。
本だって編集や校閲を経てもなお間違いが残ってる時もある。どんな情報も信頼性、内容の信憑性は常に考えなきゃならない。
本は誰かの興味がないと書かれないし刊行もされない。そうなると本やネットではなく書類とか写真などの一次資料を当らなきゃならなくなる。
MLA連携って言い方あるけど、これは博物館・図書館・アーカイブの頭文字を取ったものなのよね。今回ミアキちゃんが見つけたような話はアーカイブ、文書館で調べるともっと掘り下げられる可能性はあるから、その事はみんな肝に銘じてね」
「はい」
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