第4話 <6> 2日目:上伊那図書館

 翌朝、ぐーすか寝ているアガクミ先輩と広乃ちゃんを叩き起こすと朝風呂に行った。寝る前に行こうねって約束していたんだけど予想はしていたけど二人とも低血圧気味で中々起きてくれない。

「二人とも朝。温泉行くんでしょ」

「まだ眠い」「もっと寝させてよ」

「起こせって言ったのはあなた達二人でしょうが」

寝ぼけ眼の二人を引きずって2階の温泉に連れて行った。ああ、面倒くさい。二人は服を脱いでもまだ寝ぼけ眼。湯船に浸かってやっと目が覚めたらしい。

「もう、明日起こすのは遠慮します。一人で来た方が早いし」

「そう言わないでよ。秋ちゃん、ごめん」

「私も悪かった。明日は起こしてくれたらきちんと起きるように努める」

……っていうかアガクミ先輩も広乃ちゃんも、そこは「私が明日は起こそう」じゃないんですか。まったく、もう。


「さ、そろそろ上がって支度しないと朝食間に合わなくなるし」

二人を追い立てて温泉から出ると大急ぎで部屋に戻って身支度した。

 朝食バイキングは夕食会場と同じ大広間だった。

「ローメンってどんなのかな?」

 正体は蒸した太めの中華麺と炒めた羊肉と野菜を合わせたもの。焼きそばに近いのかな。汁に浸かったバージョンもあるそうだけど、ここでは汁なしの焼きそばに近いものが出てきていた。戦後に生まれた伊那の郷土料理という事みたい。

マトン肉はにおいが嫌いな人には合いそうにないけど、私はラム肉は好きだったりする。お姉ちゃんの友達の陽子さんが作ってくれたラムのスペアリブ料理なんて最高だし。肉の味は絶対に濃いと思う。

……という事で私は好きだけどユウスケや広乃ちゃんは「ちょっと苦手」と言っていた。


 9時前にロビーに全員集合してまたマイクロバスに送られて伊那市駅に向かい、そこから徒歩数分の所にある伊那市創造館へ移動した。ここは昭和初期に上伊那図書館として建築された由緒ある建物。図書館は移転しているけど今も改装して使われていて、当時の図書館を残したエリアなどが見学できるようにもなっている。


 まず音田先生と秋葉先輩が挨拶して上伊那図書館歴史資料室を見学をさせてもらった。書庫は内部で木造二階建てになっていて狭く当時の様子が偲ばれるものがあった。またあまり明るくなく昔ながらの図書館のイメージってこうだったのだろうなと思わせるものがあった。


 運が良かった事に「戦時下の暮らしと図書館」と銘打った企画展をちょうどやっていて見る事が出来た。

 戦前・戦時下の戦意高揚と国への協力を求めるポスターなどが多く展示されていた。

 この展示の一番の目玉は敗戦時に県の方から出た焼却命令書の控えが残っていて展示されているところにある。本来残ってはいけない書類だったのは「この文書も燃やせ」と指示がつけられている事で分かる。


 和賀山先輩曰く「敗戦時に政府から軍関係書類の焼却命令は出ていて多くは焼かれたんだけど、一部はその命令を良しとしなかった人たちが隠して残している。この命令書は長野県の役人が県内の図書館などに送ったみたいだけど政府のやった事を見て同じような事を県でやろうとしたんだろうね」という事だった。戦時中に不適切として閉架で閲覧禁止にしていた本などまとめてこれで焼かせて証拠隠滅しようとしたのは問題大きいなあと思って見ていた。

 戦後、進駐軍の人がやって来ていた事もあったようで落書きが残ってるとかそんな平和な話も聞けた。戦中は鬼畜米英。戦後は隣人になって多分理解し合えた事もあったのじゃないかって思う。知らない人たちに対して悪口は言いやすい。知っていたら言えない。そういう事ってあると思う。

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