第4話 <5> 権兵衛峠ホテル

 17時前に図書館の方々に挨拶して出ると駅へ戻った。二晩お世話になるホテルがある伊那市駅へ向かった。ホテルは音田先生のご親戚の方がやられてるところで駅から車で10分ほどの場所にあった。ありがたい事にホテルのマイクロバスが駅に迎えに来てくれていたので歩かずに済んだのは助かった。


 泊まったホテルは権兵衛峠ホテルという名前だった。木曽川の方へ抜ける道の途中にあり、伊那や高遠の方を一望できる。ホテルとは名乗っているけどもともとは観光旅館といった方がいい和風ホテル。なんといっても温泉完備というのがいいというのは図書委員の統一見解。


 部屋割りは男子3人は和室、女子は3年生2人がツイン、2年生・1年生3人は和室、音田先生がシングルの割当になった。そして夕食は大広間で他のお客様たちと並んで取るという観光旅館ホテルならではの洋風・和風ミックス。


 アガクミ先輩と広乃ちゃん、私は3人で2階の部屋へ入った。バス・トイレ、8畳ほどの畳敷きに障子があってソファーが窓側に置かれていた。ザ・和風って感じ。


「場所は公平にジャンケンで決めよう」

アガクミ先輩の公平感は先輩の横暴ではない。この人の矜恃きょうじらしい。

「いいですよ。今日こそ負けない」

 一応宣言しておいて広乃ちゃんと今日こそはと雪辱を誓い合った。この人、そこは偉いんだけど何故か勝負事への勘が鋭いのか頭がいいのか6割ぐらいの勝率を維持しているんだよね。機会は与えてくれるというのは否定しないけど勝負になってないなあというのが悔しいところ。

「じゃあ、アガクミ先輩、行きますよ。ジャンケン……ポン!」


 一撃で負けた。私達はパー。アガクミ先輩はしっかりチョキ。なんでこうなるのかな。

「2:1は案外気楽。引き分けになるか勝つしかないから」

やっぱりアガクミ先輩は何か変。負けるという条件設定がないし。

結局、窓際が先輩、中央が広乃ちゃん、玄関側が私になった。

場所を決めた所でドアがノックされた。

「温泉行こうよ、温泉」

音田先生と秋葉先輩達女子組だった。


 温泉、良いお湯だった。夕食に向けて準備万端。部屋で一休みしていたら時間になったので大広間に集合。私と広乃ちゃんは浴衣が苦手だったので寝間着代わりのトレーナー。アガクミさん達先輩3人は私服、音田先生は浴衣というフォーメーション。男子はみんなトレーナーだった。


 夕食は一人ごとに膳が置かれるという古き良き旅館スタイル。ご飯はお代わり自由(餅多先輩が喜んでいた)。大広間の仲居さん曰く「海外から来た人にはバンケットルームも選べるようにはしてるのです」との事。今日は海外から来たお客様も日本旅行のリピーターらしく大広間希望だったと言われていた。


 高校生男子どもがご飯のお代わりに邁進している中で女子組はおかずの味を堪能。なんと馬刺しが出て美味しかった。そういえば伊那地方にはローメンとかいう郷土料理があるらしく、それは朝食バイキングで食べられるらしい。楽しみ。


 夕食後、カラオケルームに集合になった。

「明日の予習は出来てるよね」

 明日は戦前の図書館の様子を垣間見られるという伊那市の建物を見学してから松川町の図書館でレファレンス演習を行う予定だった。事前勉強は夏休み入り前にやって来たので頷くみんな。

「じゃ、今日はカラオケやりましょう!明日はこうはいかないけどね」

そして大人のジュースを手にした音田先生の音頭取りで乾杯(みんなはウーロン茶とかジュースだけどね)したのだった。

 私の持ち歌なんて姉と一緒に見に行ったお気に入りのアニメ映画の劇中歌ぐらいしかないのでそれを歌ったら「10年前の歌じゃないの。ちゃんと今時の歌検索して練習してなきゃダメだよ」と音田先生に言われてしまった。

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