第4話 <4> えんぱーく
13時30分過ぎに予定通り塩尻駅に着いた。駅を出ると近くの食堂に入ってお昼に。
「お腹空いたし、長野と言えばお蕎麦。楽しみだなあ」と餅多先輩。この人は太め(というと「体が大きい人」と言えと言われる)なのでまあ分かる。和賀山先輩とユウスケは痩せひょろ型だけど、やっぱり男子だからか食欲は旺盛。ただ餅多先輩みたいな意見表明はあまりしない。
今日は9人と多いので音田先生が知り合いに聞いて予め予約は取られていた。それがお蕎麦のお店で餅多先輩はその情報をいち早く確認していたのだった。流石、図書委員食い意地ナンバーワン、情報が早い。
「お待ちしてましたよ」と案内された座敷席。
「ざる蕎麦、普通盛り、大盛り、食べ放題が選べるから。食べきれる人は食べ放題でも良いよ?」
「じゃ、俺は食べ放題で!」
なんて喜んだのは餅多先輩だけだった。
「俺は大盛りの2枚で」
「僕も同じでいいです」と男子二名が宣言。あ、それでも大盛りというあたりがやっぱ男子だ。女子一同は「普通の1枚でいいです」となった。
餅多先輩、大喜びで4枚食べていてみんなを呆れさせていた。
昼食後歩いて図書館へと向かった。真夏なので当然ながら暑い。
「キリキリ歩いて!図書館着いたら涼めるよ」
秋葉先輩がまたテンション上がって来た。今日のメインイベントなのでうれしそう。10分ほど歩くと塩尻市の中央図書館に着いた。竣工から年数は経ってるけど中の利用者は多く手入れの行き届いた5階建てのガラス張りの建物だった。
公式サイトによれば複合ビルになっていて1・2階に図書館が入っていた。
「そういえば歩いている人、少なくないですか?」
広乃ちゃんが疑問を呈したところ、雅楽川先輩が言った。
「地方都市だと鉄道は長距離旅行か高校生の足であって、大学生や社会人だと車が普通だからじゃない?」
アガクミ先輩が指さした。
「ほら、あそこに駐車場がある。見ての通り車の往来はある。地方の図書館は駅近くというのは少なく車前提で広い駐車場を取れる所に作る傾向はあるから覚えておいて。ここはまだいい方だと思う」
頷く広乃ちゃんとユウスケ。私も勉強になった。
館内に入ると音田先生と秋葉先輩が代表でカウンターに行って事前に申し込んでいた見学の挨拶をした。なんと図書館長の方(初老の方だった)が対応してくれるという。
「先に2階の会議室でここの簡単な紹介させてもらいますかね」
2010年開館で16年経過。開架書架は1・2階、閉架書庫は地下1階、最大収容能力46万冊で9割がた埋まっているという。
先進的な図書館として知られている所だけはあって見学も多いようで説明は的確。郷土資料収集も力を入れていて、地元で発行されている雑誌バックナンバーも揃っていて地元について知りたい事があればここが起点になる、そういう場所になっていた。
説明が終わると荷物は会議室に置かせてもらって、館長の先導で職員のみ立ち入り可能な地下書庫の見学に降りた。
地下の閉架書庫は高密度保管するため集密書架も導入されていた。レールの上に書架が載っていてハンドルを回すと移動するようになっている閉架書庫ならではの逸品。高校の図書室でもたまに入っている学校もあるけど、こういうのはうちでは導入されておらず壁面に書架が並んでいるだけだった。表に出している資料と入れ替える事で鮮度維持できるのは閉架書庫を持つメリットでうちでもやってるけど、もう少し資料費があれば読書提案アピールで入れ替える意味を増せるんだけどなあというのが音田先生と私達の共通認識だった。開架に余裕があるので閉架に入れておく意味合いが出しにくいのだ。
この後、開架エリアは自由見学になった。私はというと思わず9分類の翻訳小説の揃え方についてまずチェックした。やっぱり刊行状況についてよく知っているジャンルの書架を見るのが一番。翻訳小説は国内小説に比べるとやはり読者人口は少なくなるから資料費の状況も分かりやすいと思っている。
ここの場合、概ね買ってるようで単行本の揃いは良かった。文庫本は少ないのは愛蔵版など単行本が出ればそちらを優先されてるからだろう。大手出版社だと文庫版のみのケースもあるのでそのような場合だけ買われているようだ。ちゃんとチェックして注文している様子が見て取れる。
充実している郷土資料コーナーや各種データベース閲覧コーナーなどを見て集合時間少し前に2階の会議室へ戻った。
全員揃った所で簡単に見てきた感想、意見を交換した。
「2010年開館だと滞在型やアクティブ・ラーニングのブームが流行る前の設計なので閲覧席重視しつつ資料をきちんと揃えて見せる意識が見て取れる。竣工時期はやっぱり大事な情報かな」
図書館をよく見て回っている雅楽川先輩らしい見立て。和賀山先輩は資料の揃え方について触れてきた。
「国内小説も揃いは良かったけど、翻訳小説だって揃ってるんだろ?」
秋葉先輩が頷いた。
「納得の揃え方。例のスパイマスターの本も入ってたし。あの本の購入状況、図書館横断検索サイト「カシダス」で調べたら同じ頃に発行された他の翻訳小説と比べると半分程度の自治体しか買ってない。通常の倍の価格ってというのはやはり影響は大きいし、それ故に保有状況が一つの評価指標になるかな」
餅多先輩が言う。
「YA(ヤングアダルト)はみんな見たかな?ラノベも無難な所は買ってると思うよ。熱心さは感じないけどね。資料費が適切だとどんな分野も揃いがよくなるって証拠の一つにはなりそう」
「夏休みとは言え閲覧席に中高生が少ないけどYAが充分じゃないんじゃないか?」
アガクミ先輩は餅多先輩の見立てに疑問を提示した。
「ああ、アガクミ。目の付け所はいいけど図書館の人に確認したのかい?」
「いいえ。そこまでは気が回ってなかった。という事は聞いた?」
「俺は聞いてみた。気になったからね。豪雨災害があった影響で学校の授業が遅れていて補講とか入っていて夏休みは8月からだってさ」
「納得」
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