第4話 <3> 1日目:塩尻へ
21日朝8時30分、音田先生と私達図書委員8名は遅れる事なく登戸駅に集合した。「はーい。点呼取って」って事はなかった。見れば分かる人数だし。
みんな、普段とそう大差のない格好。さすがに制服・標準服組は私服だけど。いつもそういう格好してる訳じゃないし。どちらかというと図書館内入り浸る気満々なので女子は冷房対策で一枚羽織るものを持ってきているって感じ。
「全員、揃ってるわね。じゃ、行きましょうか」
音田先生の指示で荷物を持つと無人の有人改札(カメラや押印装置が備え付けられているリモート改札)を通って駅構内へ。ほどなく黄色帯の電車がやって来たので乗車。まだ通勤時間帯なので混んでいるけど川崎方向じゃないし、夏休み期間に入って高校・大学生の乗車も減っているのでまあ楽な方なのかなと思いながら詰め込まれる。
立川駅で中央線に乗り換えて一路塩尻へ向かう。クロスシートだけどみんな向きを変える事もなく静かに読書や音楽を聴いてたりしている。
ユウスケはアガクミ先輩と何かSFネタの話をしていた。よしよし、ちょっとは進展してるのかな。
私はというと音田先生と最近の海外ミステリー小説と映像化について話し込む事になった。しのぶちゃんは私にとってはもともとこの方面のお師匠なのだ。翻訳小説はミステリーはまだしも全般的に低調になっている。あの少子化のおかげで読書人口が減っているので、読者比率が小さなニッチな分野の小説から衰退が加速する。文庫と単行本の違いなんてもうない。図書館主体なら単行本オンリーになるし、それだってオンデマンドになる事すらある。一般読者ターゲットなら文庫オンリー。書店は1時間車で走らないと手に入らない地域もある。そういうところは電子書籍でどうぞ、っていうのが昨今の出版界の対応。どれで買っても昔みたいな価格差もない。というか出せない。どうしようもないよね。
なのでしのぶちゃんは原著を辞書や翻訳サービスを使いながら読んでいる。この点は頭が上がらない。私は小さな頃からドラマや映画で入ったクチなのでそれなら映像化待ちまーすという所はどうしてもあるのだ。
「先生、原著で読んでいて大変じゃないですか?」
「電子書籍だと辞書引いたりは簡単だから。まだいいんじゃない。国内ミステリーも頑張ってるけど、あちらの文化とか知りたいじゃない。そうじゃなかったら邦訳だって読まないよね?映像化作品だってそうでしょ?」
「それは同感なんですけど。ほんと今後どうなるのかなーっていうのは心配で」
「よくならないわよ。それだけは確信しちゃってるな。ミアキちゃんも英語のヒアリングは出来た方が楽しいと思うよ」
「やっぱりそうですよね。原著読みもコナリー新刊出たらやってみようかなあ」
「既刊でページ数の少ない作品の方がいいかもね。きちんとした翻訳家の人の訳業と比較できるでしょ?まず出来るか見極めた方が良いよ」
なるほど。勉強になります。
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