第3話<7/7> 報酬の請求

 会議はこの後、残り20冊の枠を委員の購入希望で取り合うゲームになった。平均単価範疇であれば一人一冊はよほどの事がなければ購入される事になっていたので、この分で8冊は埋まる。だから争いになったのは残りの12冊。1年生特別キャンペーンとかいう事で私達は更に2冊割当をすると言われたので、残り6冊の枠を5人の先輩たちが争う事になった。


 1年生も投票には参加したので勢力分布は次のようになった。


・翻訳小説連合(秋葉あきば先輩、和賀山わがやま先輩、私)

・国内小説派(雅楽川うたがわ先輩、広乃ちゃん)

・SF小説派(安形あがた先輩、ユウスケ)

・ラノベ小説至上主義者(餅多もちだ先輩)


 投票は推薦者が1冊ずつ候補を出して公開投票を行った上で再度意見交換して決選投票を行って決めた。推薦者は投票で勝ち抜けなかった本を再度挙げる事が出来た。これで枠を全て埋めるまで繰り返していく。


 投票は四派が必要に応じて連合を組んで調整を進めた。ちなみに音田おんだ先生も一票握っている。先生はどの派にも付かず同数で割れた時だけ票を入れる事になっていた(という対応が普通なので如何にスパイマスターの本が異常な対応されたか分かる)。


 一見、翻訳小説連合の3人が優勢に見えるけど、他の派が5人も占めてる訳でシーソーゲームになった。そして6冊の行方は意外な結果になった。


・翻訳小説 2

・国内小説 1

・ラノベ 3


 ラノベが3冊になったのはミステリーともSFともとれるクロスオーバー作品をいれてきた餅多もちだ先輩の交渉力の為せる技だった。国内小説派の人もそこは理解してそちらに賛成票を回した結果、ラノベ枠が最多になった。ああいう餅多もちだ先輩のアピール力は真似ていきたいなと思った。


 波乱に満ちた選書会議はなんとか18時には終わった。

 その後で音田先生と私は図書準備室に移動した。書店に連絡して交渉するため、ってみんなには言ったけど実は謎解きの確認が目的だった。準備室に入ると私は単刀直入に音田おんだ先生に聞いた。


「先生、私を踊らせてますよね?もう書店とは話はついてるんじゃないですか?」

「話はついてないけど、多分大丈夫だよ。バレちゃってた?」

「コーヒー、なんで飲ませてくれたのかなって考えれば分かります」

「テヘっ」

先生がやってもかわいくもなんともないですから。


 私が先生が大事にしているコーヒーのご馳走攻めにあったのは会議中に離席させようと狙っての事。そしてそのタイミングであの本についてどうするか誘導、投票させて決定できない状態に持ち込んだのだった。


「ごめんね。私個人は買うべきだとは思ったけど、学校の司書教諭としては小説は小説だから積極的に言えないのは会議の際に触れた通りなんだよね。先生の反対票含めて生徒委員たちの賛成票が多く決めたという事であれば職員会議とか保護者会への説明とかでも耐えられる。このあたりは先代の司書教諭の人からのテクニックなのよね」


「私が対応方法思いつかなかったらどうする気だったんです?」


「誘導するわよ、そりゃ。でも私の知ってるミアキちゃんならまず答えは出すと思っていたから気楽だったかな」

陰謀もいいところだった。


「分かりましたけど、先生。コーヒー2杯ぐらいじゃ割に合わないので、また飲ませて下さい。美味しかったですから」


 しのぶちゃん、というか音田おんだ先生、ちょっと渋い顔をしていたけど頷いてきた。

「ミアキちゃん、タダでは起きないのね」

そりゃ、しのぶちゃんと付き合ってればそうなりますって。

今日、飲ませてもらったコーヒーはブラジル豆らしい。うちのお母さんでも納得しそうな味なのでまた飲めるならまだ許せる。うん。私もお母さんほどじゃないけどコーヒーは大好きなのだ。学校で美味しい珈琲をご相伴に与れるのは結構な報酬かもしれない。

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