第3話<6/7> 離礁

 さて,私はどうしたらいいんだろう。うかつにどちらに転んでも後々色々言われそうな予感しかない。


 音田おんだ先生としては買いたいんだろうと私は思っている。ただ、これで他の本が買えないというのは困る。あと購入したとしてちゃんと読まれるかどうかも問われるだろう。資料費は限りがあるし、授業料とは別途集めている費用から支出されていて無茶な事は出来ない。


 となれば上巻だけ買うって事は考えられたんじゃないかな。

ただ、それだと下巻がないから読まないってなる可能性があるのか。

買うタイミングをずらすだけならありなんじゃない?

 上巻だけ月末に買ってこちらが借りられたら下巻を買う。翌月初めに。

では上巻が借りられなかったら、どうする?

 いっそ上巻はカウンター保管にして借りられなかったら返本交換してもらう?それって無茶?


「先生、本を書店から買った分を返本して他の本を交換してもらうって事は出来ますか?受注生産のPODは無理だと思うのですけど、一般流通もある愛蔵版なら応じてもらえる余地はない事はないと思うのですけど」


 音田おんだ先生は笑みを浮かべた。しのぶちゃんって……。

「聞いてみる価値はあるわね。PODはミアキちゃんの言うとおり返品は無理だけど、一般書としても流通している愛蔵版なら受けてくれる可能性がある。そして幸運な事に件の本は愛蔵版だし」


 私はその言葉を受けて何を考えたかみんなに説明した。

「もし返本交換出来るなら、上巻を月末に注文して入れて貰って貸出依頼があれば即座に装備作業を行って貸し出して翌月下巻も購入します。

上巻が借りられなかったら?返本してネット書店の欲しいものリストに残っている上位の本と代えてもらうというのはどうでしょうか?」


 購入派の秋葉あきば先輩、和賀山わがやま先輩、安形あがた先輩らはうん、うんと頷いた。

「いいんじゃない?」


 見送り派の雅楽川うたがわ先輩、餅多もちだ先輩らは「へぇ」という表情。

「予算的に2ヶ月に分けられるなら許容範囲」

「ラノベ購入を阻害しないからいいかな」


 そして幼馴染みの二人は呆れて私を見ていた。必死で考えた結果なのによくそんなの思いつくなあと思っていそうなのが見て取れる。あとでよく二人には説明しなきゃ。


「先生、乗り掛かった船状態ですから、私が書店の人と交渉してみたいんですけど」

「いいよ。ミアキちゃん。ご褒美にやらしてあげる。会議が終わったら準備室から電話しようか」

「はい」

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