第3話<5/7> クロスファイアー
よく分からない事がある。購入派が誰も自分の優先枠を使おうとしてないのだ。
「購入派の人が自分の枠で希望を出せばこんな討議いらないんじゃないですか?」
「古城さん。みんな各自で買って欲しいなって思っている本はあるんだよ。だから君がその権利を行使したって問題はない。逆を言えばみんなそういう優先で読みたいと思う生徒の為に踏ん切る気まではなれてない。あともう一つ問題があるけどね」
そりゃそうでしょうけど。購入派の皆さん、和賀山先輩を含めてみんなひどい。
私は仮定の話として購入派についたらどうなるのか質問してみた。
「もしも、私が購入で一票投じたら?」
「実はね。今度の新刊って大作らしくて上下巻各6,000円するんだって」
合計12,000円。予算は1ヶ月あたり10万円しかないのに。
「うちの図書室の資料費は平均単価2,500円というのは電子黒板に書いた通り。この本のセットを買うとざっと5冊分の予算が吹き飛ぶ。5冊分で2冊しか買えない。だから3冊分枠を削るしかないって事にはなるわね」
これはこれで大変都合の悪い話だった。これでは簡単に購入派につく事も出来ない。
見送り派についた広乃ちゃんが容赦なく購入派を攻めた。
「もし買うんだったら削る枠は購入派の人たちの枠内で調整すべきじゃないですか?」
反撃する
「賛成できない。購入リスト枠数を減らすという選択肢もある。手段は検討し尽くすべき。
音田先生がアガクミ先輩に注意した。
「安形さん。購入数を減らすのはダメだからね。リクエストは尊重しないと」
もう戦争が始まったらしい。クロスファイア。そして両軍の間で立ち尽くしているのが私なのだ。
そしてひらめいた。ネット書店の欲しいものリスト入りさせて保留するという体裁の見送りはどうなんだろう?
音田先生は私の考えを見透かして言った。
「ミアキちゃーん。多分、頭を過ぎったと思うから言うけど『欲しいものリスト』って載せるのはいいけどそんな高い物は買ってくれないからね。4,000円越える事もまれだし」
あ、そうですか。そりゃそうですよね。私が卒業して母校に寄付するとしても先生が言われた4,000円前後がいいところだろう。そうなるとって考えて一つの結論が出た。でもこれじゃない感は強い。
「音田先生、そうなってくると買わないのがいいって事にならないですか?」
「でもリクエストしてきた人がいるし、評判にもなっている。それでも学校として必要、必須との判断は無理。小説は小説だから。しかも高いし」
「だから選書会議が重要な訳なんだけど、先生が何故か買わない方に与した事で古城さんがキャスティングボートを握る事になった訳だけど良識ある一票を購入派に入れて欲しいな」
音田先生が言った。
「学校の司書教諭としては小説より買わなきゃいけないものはあるとは言わざるを得ないからね。その立場で入れただけ」
「ちょっと、かほちゃん。この本をそうやって買ったとして次は3冊削る戦争を起こすつもり?」
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